「アイカツスターズ」未来に向かってテイクオフする香澄姉妹
S4の中で誰より早く世界に挑戦した香澄夜空。同期の中で最も早く星のツバサを手に入れた香澄真昼。
あまりの顔の良さと仲の良さに目を奪われてしまいますが、彼女達は「アイカツスターズ」において向上心が特に強いアイドルでもあります。
本稿ではそのような香澄姉妹のキャラクター性について、楽曲の歌詞と照らし合わせながら述べていきます。
香澄夜空の伝わらない愛
只野菜摘作詞の「未来トランジット」はランウェイ(滑走路、ファッションショーの舞台)から離陸して遠い国に向かう旅人が、一時的に休む為に他国の空港に立ち寄る歌と言えるでしょう。
旅人は未来の途中にあり、いつ故郷に帰るかも分かりません。休息や危機も糧として前に進むような姿が、ここでは歌われています。
未来トランジット
「今はひとつの場所にとどまりたくない自分がいるの たとえ飛び立った後に時が流れてても」
「これからめぐり逢うチャンスたちに私は絶対ひるまないよ どんなにすごい人たちがいるの」
最愛の妹を家に置き去りにして、四ツ星学園に入学した夜空先輩。向上心が強い人と言われる彼女は、真昼が追い掛けている間にも、どこまでも遠い所に進んでしまいます。
そのような関係性は上記の歌詞のみならず、アニメの演出にも見る事が出来ます。香澄姉妹回となる14話では、路面電車に掲載された夜空の広告が真昼から遠ざかる様子、そして夜空の広告を見つめて拳を握り締める真昼の姿が描かれています。
立ち止まっていてはあっという間に差がついてしまう。差を埋めたい真昼にはそれこそ「チャージのための時間ありがとう」なんて言葉が思い浮かばないくらいに鍛える道しか残されていませんでした。
そして十分な食事も休息も摂らないままアイカツを続けた真昼は倒れてしまいます。どうしてそれ程まで真昼が自分を追い込んでいたのかといえば、自分を捨てた姉を見返したいからでした。
お互い愛しているにもかかわらず、その間に溝が生まれていた香澄姉妹。真昼は月に背を向けて水面に映る偽の月を見つめるように、夜空と本心で向き合えていませんでした。
このような両者の意識の擦れ違いについては、こだまさおり作詞の「Summer Tears Diary」と「未来トランジット」からも読み取れると思います。
Summer Tears Diary
「いつかは思い出のなかでキミを探しても気づけない日が来て」
「オトナになれば時間も距離もカンタンに越えられるのに」
「Summer Tears Diary」は特別な関係であった親友が秋には別れてしまうことになり、もうじき訪れる悲しい未来を考えて切なさが溢れ出す夏の日の歌。
子供にとって遠く離れた人と再び会うことは難しく、大人になった時には既に顔を思い出すことも出来なくなってしまう。
この歌詞は時が流れても一瞬で分かり合える気がしている「未来トランジット」とは正反対。夜空先輩は真昼の寂しさを分かってあげられませんでした。
未来トランジット
「うん時々メール送るね 刺激受けた仲間や街の写真を」
「離れていたはずの空白や距離や地図の壁も越えて 一瞬でわかりあえるような気がした」
家に取り残された小学生の真昼にしてみれば、S4の仲間と楽しそうにしている写真を送られたとしても、劣等感を刺激されるだけでしょう。
過去より未来を向いている。アイドルとして充実した日々を送る姉の姿は、まるで自分と一緒に遊んだ楽しい思い出を忘れてしまったかのように見えたかもしれませんが、決してそのようなことはありません。夜空先輩は昔も今も妹を愛している。
夜空「ステージ辞退されちゃった。私の愛情は間違っていたのかも。」
ひめ「大好きって気持ちにきっと間違いなんてないわ。」
その愛を夜空先輩が真昼に伝えられた時が分かり合える時。15話で夜空は妹が寂しかったことを知り、真昼は姉が思い出を捨てたのではないことを知ります。その関係の修復を象徴するアイテムが、真昼が捨てたはずのお絵描きコーデ。
髪の分け方と色を見れば分かる様に、塗り終わった絵は真昼であり夜空でもあります。「真昼の好きな色なら何でもかわいいよ」と言われていたお絵描きコーデにおいて、真昼が茶色で髪を塗ることは姉に向けた愛の告白も同然。
そして歌われる「Summer Tears Diary」。この曲を通して夜空先輩は真昼の孤独を深く知ったことでしょう。ここで香澄姉妹の物語は節目を迎えますが、その後も真昼は姉を越える為にアイカツを続けます。
香澄真昼は咲き誇る
S4戦で真昼が選んだ曲はYADAKO作詞の「TSU-BO-MI ~鮮やかな未来へ~」。初めて手に入れた自分だけのエキゾチックサンセットコーデを身に纏い挑みます。優しい光が蕾に降り注けば、もう何も怖くありません。
TSU-BO-MI ~鮮やかな未来へ~
「あの日の傷跡 薄れてく 強さと勇気を今」
「鮮やかな未来へと花びら広げ…」
「Summer Tears Diary」が大切な夏の日を忘れてしまうくらいなら、このままチクリと胸に刺さった傷が癒えないで欲しいと願う歌であるのに対して、こちらは傷が癒えることも厭わず、雪どけから未来へ芽吹き始める花々の歌。
同じ様に未来へ向かう「未来トランジット」を歌った夜空先輩を追い越し、真昼はS4とロマンスキスのミューズに任命されることになりました。
真昼は早くも大きな目標を達成しましたが、この程度で立ち止まるようなアイドルではありません。「咲き誇れ私だけのドレス」という台詞と共に蕾は花を咲かせ、やがて瑞々しい果実を実らせる。
MAKEOVER♡MAKEUP
「香りは甘いシトラス 潤んだ果実」
「見つけたい わたしらしさのはじまりに」
こだまさおり作詞の「MAKEOVER♡MAKEUP」に表れているように真昼は更に先に進みますが、夜空先輩もこのままでは終わりません。「フォトカツ」で語られていたように「TSU-BO-MI ~鮮やかな未来へ~」を歌った彼女も自分だけの蕾を開花させようとアイカツに励みます。
どこまでも強く美しくなる夜空先輩。 異常なまでに真昼を溺愛しながらも、自身を成長させる欲を失わず、何年間も大切な人達の側を離れてしまえる。身近な幸福を捨て去る覚悟。恐らく、それこそが大橋彩香演じる紫吹蘭や明日香ミライには見られない香澄夜空らしさになるのではないかと思います。
真昼「香澄夜空はとても向上心の強い人なんです。努力家で研究熱心でトップを獲っても満足することなく、更に上を目指す為に次のステージへと突き進む。私の姉はそういう人なんです。」
他の方が書かれた15話の解説記事。