アニメごろごろ

楽しんで頂けたらツイートなどしてもらえると喜びます。

「HUGっと!プリキュア」ハリーとリストルとビシンの輝く未来を抱きしめて

f:id:taida5656:20190206214551j:plain

性別、年齢、種族の壁を取り払ってきた「HUGっと!プリキュア」。そうした型に嵌まらない作風だけあって、従来の女の子のドラマのみならず、ハリーを中心に巻き起こる男のドラマも濃密でした。

未来を求めるハリー、今を受け入れるリストル。過去にしがみつくビシン。本作は考え方の異なる彼等のドラマが絡み合い、物語に数段の深みを与えていました。

 

夢を見ないリアリストのリストル

今という目の前の残酷な現実を受け入れたリストル。故郷の喪失を経験し、大きな力に抗えないことを悟った彼は、クライに命じられるまま時を止める為に働きます。それが弱き者の賢い生き方。

現実主義者で子供の様に夢を見ないリストルは、役に立たない部下を切り捨てるなどの非情な態度が目立ちます。しかし、自身の行動に何も感じていない訳ではありません。

リストルなりに効率を重視した結果、あの様な行動に行き着きましたが、本心ではそうするしかない無力な自分を嫌悪している節もありました。その気配は出歯亀ディレクターへの態度から感じ取れます。

 

リストル「あんたは俺の最も嫌うタイプの人間だ」

 

上司に怒られることを恐れて、視聴率を稼ぐ為にでっちあげや妨害工作等の汚い手を使う出歯亀ディレクター。私のなりたい私になるのではなく、大きな力に媚びて生きている。叶えたい夢も持たず、他者を引き摺り落とすばかり。

その姿は自分の心を縛り、大切な家族を牢屋に閉じ込め、憎んでいる相手に忠誠を誓っているリストル自身と重なるものでした。リストルが出歯亀ディレクターに向ける感情は、そのまま自分にも向けられていたことでしょう。

f:id:taida5656:20190206233516j:plain

そうした矛盾を抱えているのが、リストルというキャラクター。特にクライに対しては複雑な感情を向けており、それ故にプリキュアの必殺技で中途半端に心を解き放たれてしまえば、相反する感情が混ざり動けなくなってしまいます。

クライを心の底で憎んではいるけれど、それでも側を離れる気にはなれない。心より頭で考えてしまう人が陥り易い罠。クライはそんなリストルを見ていられなくなったでしょう。

膝から崩れ落ちるリストルに優しく布を掛け、余計な記憶を消去して葛藤から解放しました。クライは人として歪んでいるかもしれないですけれど、根底に他者を救いたい心がある為に、リストルも憎み切れなかったのかもしれませんね。

 

過去に縛られ続けるビシン

残酷な現実を直視していたリストルと異なり、それすら見えていないビシン。クライアス社に従う点でリストルと変わらないものの、ビシンの心は家族と楽しく過ごしてきた過去に残されたまま。思い出の中に生きており先に進めません。その姿は昔のほまれに少し似ています。

作中で言及されていた通り、ビシンとほまれは共通項が多く、好きな人に振り向いてもらえず、大切な家族を失ってしまい、過去に受けた心の傷で未来に羽ばたけませんでした。

以前のほまれがそうであった様に、ビシンも過去がキラキラと輝いていた分、失敗する未来を恐れてしまいます。今以上に状況が悪化する位なら、何も変えない方が良い。

 

ビシン「痛みを抱えていくつもりかよ。そんなの辛すぎるだろ」

 

そうしたネガティブな心理状態から、ハリーと一緒に未来を掴もうとせず、ハリーとの関係を元の形に戻したがります。それ以外の心を満たす方法をビシンは知りません。

ビシンの行動はハリーの意思を尊重しておらず、傍から見れば独り善がりに思えます。それは確かに褒められたものではありませんが、そうなってしまう原因は本人だけにあるとは言えません。

 

リストル「お前の寂しさに寄り添うことが出来なかった」

 

ほまれの側には支えてくれる母親や祖父母がいたけれど、ビシンの側には誰もいませんでした。ハリーはビシンを捨ててプリキュアに助力、リストルも鎖で縛り付けられたビシンを放置。

心から信頼する兄貴達は望まない方に変わっていってしまいました。この有り様では未来に希望を抱けなくても無理はありません。

えみるやことりよりは年上に見えますが、それでもまだまだ子供なんですよ。ビシンが真っ直ぐに育つ為には家族の愛が欠かせません。作品のテーマに沿って言えば、皆で育んであげられなかった子供。それがビシンというキャラクターになるのでしょう。

 

過去を捨て未来に生きるハリー

キュアトゥモローに力を貸す代わりに、クライアス社に家族を置き去りにしてきたハリー。輝く未来を手に入れる為に戦っている裏で、暗い過去から目を背けてきました。

自身の正体をプリキュア達に打ち明けなければならないことや、家族と真剣に向き合わなければならないことは分かっているけれど、動き出さないまま問題を抱え込んでしまう。

そうやってハリーは解決を先に延ばしていましたが、それでは心の底から祝える未来は掴めません。恐らくはハリー自身も理解していることではあるでしょう。

しかし、だからといって最初の一歩を踏み出せるかといえば、そう簡単には行えないですよね。未来は常に明るいものではなく、自分の望まない結末を迎える時もある訳で、それを想像した途端に足が止まってしまうことは責められません。

それでも前に進まなければならない時はあります。そんな時に鍵となるのが、背中を押してくれる応援や陰で支えてくれる人達の存在です。それは「HUGっと!プリキュア」が繰り返し伝えてきたメッセージ。

ハリーも例に漏れず、プリキュアを中心に沢山の人達に助けてもらいました。そしてその中で最も支えてきた人物が、王子様を助ける人魚姫の輝木ほまれであったと思います。

f:id:taida5656:20190206231846j:plain

自分を支えてくれる家族を安心させる為に、私のなりたい私になる為に、挫折を乗り越えて自分の力で夢を叶えるほまれ。恵まれた才能や容姿と関係なく、生き方そのものが眩しく輝いている人でした。

クライアス社の力を借りた挙げ句に改造されて暴れ回り、大切な家族を置き去りにしてきたハリーにしてみれば、彼女の勇姿はキラキラと輝く星の様に映ったことでしょう。そう感じていることは、夏まつりの会話に表れていました。

 

ハリー「大したもんや」

ほまれ「そんなことないよ」

 

ほまれの叶わない恋と知った上で告白する勇気、失恋しても相手の幸福を願える愛、そして辛い事も輝く思い出に変える力。それが過去から逃げていたハリーの胸を打つ。

皆を輝かせるキュアエトワールことほまれが先を行き、進むべき道を照らしていたからこそ、ハリーも過去と向き合う覚悟を決められたのだと思います。

 

ハリー「俺の身体はもう戻らへん。けど、俺は自分を受け入れて未来へ行く」

 

物語の終盤、ハリーはリストルとビシンの拳を真正面から受け止めます。その態度は口では対話を望んでいながらも、リストルに殴り返していた頃と全く違います。

あの時はリストルに向けた拳が受け流され、その力を利用した強烈な反撃で倒されましたが、今はそうではありません。闇雲に暴力に暴力で応じていては、争い事は激しくなるばかりで、歩み寄れないことを身を以て学んだハリー。

距離を置いて避けることもなく、罪を償う為に全て耐えました。目の前の家族から決して逃げないという覚悟。そうして心の距離と体の距離を縮め、初めてハリーはリストルを抱き締めてあげられます。そこでハリーから愛を受け取ったリストルが、今度は孤独に苦しむビシンを優しく抱き締めます。プリキュア、ハリー、リストル、ビシンへと伝わる愛。

 

ハリー「一緒ならやり直せる。俺達の未来を作ろう」

 

離れ離れになっていたハリー達の心が、プリキュアの力を借りて遂に戻りました。最終回で未来に帰った性格も能力もバラバラな3人が、プリキュア達の様に力を合わせる姿を見られないことは残念でしたが、様々な困難を乗り越えた彼等の絆は、未来で更に固く結ばれているでしょう。

HUGっと!プリキュア」は社会的なテーマが注目された作品でしたが、それ以上に物語の完成度が高く、この1年間とても楽しませてもらいました。これ程の傑作を生み出してくれたスタッフの未来が輝く様に、これからもプリキュアシリーズを応援していきたいと思います。

taida5656.hatenablog.com