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「ガッチャマンクラウズ インサイト」最終回の感想と考察

「GATCHAMAN CROWDS insight」Vol.1 Blu-ray

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前作は1話を見ただけではどうなるか予想もつかない構成でしたが、それに対して今作は随分と親切な設計なので、1話を見れば物語の向かう先が大体は読めます。中村健治監督が最初に作品の見所が何なのかを明確に伝える意思があるおかげで、視聴者の方も作品が自分に合うのか合わないのか判断しやすい。「ガッチャマンクラウズ インサイト」は視聴者の予想は裏切りますが、期待は裏切らない作品でしたね。

あえて作品の見所を序盤では隠して視聴者を驚かせようとした作品には「六花の勇者」や「がっこうぐらし」や「喰霊零」がありますが、この手法は作品を最後まで見れば熱中しそうな視聴者を早い段階で飽させる恐れや、序盤の印象に引き摺られて楽しみ方を間違えた視聴者に後から望んだ展開と違うと不満を口に出される恐れがある為に扱いは難しそうです。


早急に答えを出さない事が答え
クラウズはVAPEのテロの影響を受けて危険視され一度は廃止されましたが、何時の間にやらまた誰もが利用可能な社会に戻りました。車以上に扱いの難しいクラウズを使い続けるのであれば、それが起こす問題にどう対処するのか考えなければなりませんが、作中ではそれに関する明確な答えは描かれませんでした。はっきり言って社会がクラウズとどの様に付き合うのかという問題に関しては、前作で出した結論からは一歩も前進していないんですよね。その物語の停滞は批判の対象にされそうなものですが、この作品はそれを絶妙な具合に回避していましたね。

ガッチャマンクラウズ インサイト」はクラウズの扱い方に関して冷静に議論して答えを出せない大衆の愚かさの方を題材にして、空気に流されずに議論をしなければならないという心構えを中心に描き、クラウズが必要か不必要かを議論する段階まで物語を進めない道を選びました。ここで時間を掛けて自分達の頭で考えるようにしなければならないと物語上の結論を出されると、クラウズの問題に早急に答えを出すのは間違いだから答えは必要無いと言い張れます。

視聴者がクラウズの問題に答えを出さずに放置していると批判しても、そこで答えを求めるのは熟考出来ない猿の生き方だと返されてしまう。前作で残された問題に対する直接的な答えを出さないで、論点を微妙に逸らして問題解決を先伸ばしにしたのは狡いけど巧い手法だと思います。1クールしかない中でやるにはこれが最適解ではないでしょうか。


愚かな猿から人間に進化したつばさ
空気に流されるだけの大衆が自分の頭で考られるまでに成長しないと社会は作られない。これを視聴者を楽しませながら伝えるには名も無き大衆だけにせず、感情移入可能な名前と人格のあるキャラの姿を通じて描いた方が効果的です。そしてそのキャラが成長する姿を見せれば大衆もまた変われるのだと説得力を持たせて視聴者に伝えられます。

その成長する大衆の代表者として新たに作られ配置されたのが三栖立つばさ。この役割は他のガッチャマンには務まらないでしょうね。丈さんとODと累は頭の回転が速い理性的な人間ですから、愚かな猿である大衆の代表者にするのは厳しい。特に監督の代弁者的なはじめは最初から物語の結論を出してしまえる完璧超人なので、つばさみたいな道を誤り悩み答えを探しながら成長する役割は似合いません。

それに対してつばさは考えずに直感や感情に任せて行動するし、正義があやふやな世界でも自分の正しさを信じて仲間の意見を無視するし、視聴者からの株を下げる行動が目立ちますが、その代わりに成長の余地がまだまだ残されていました。つばさは既存のガッチャマンとキャラが被らない上にテーマにも活かせる性格をしていた素晴らしいキャラですね。


枇々木丈は隠れた主役
前作の主役ははじめと累で今作の主役ははじめとつばさであると言えると思います。正直同意はあまり得られない気がしますが、これ以外の隠れた主役に丈さんがいると思います。「ガッチャマンクラウズ」に丈さんは欠かせない存在であると個人的には信じています。前作はGALAXのキャッチコピー「世界をアップデートするのはヒーローではない。僕らだ」を見ても分かるように、旧来のヒーローものを否定する展開が見られました。

民主主義が広まり権力が分散された現代社会では少数の強者に世界を変える力は与えられません。そうした個人に出来ることには限界があると理解している大人な丈さんは、地方公務員として地道にこつこつと生きています。そんな現実的な身の丈を越えない生き方をする一方で、世界平和なんて夢物語を諦められずにガッチャマンを続ける丈さん。

この相反する二つの側面を持つのが丈さんという人間を語る上では必須。ヒーローにはなりたいけど、ヒーローにはなれない。丈さんのここが旧来のヒーローものをある意味否定した「ガッチャマンクラウズ」のテーマと深い繋がりがある事は理解してもらえると思います。

ヒーローに頼らずに世界を変えられると信じて集団の力を借りて革命を起こす累。ヒーローではあるが世界を変えられると信じきれず自分の力だけで戦いを続ける丈さん。「ガッチャマンクラウズ」の中心人物の累と対になるガッチャマンは丈さんしかいません。

ガッチャマンクラウズ」の敵であるカッツエに心の闇を暴かれて精神的に打ちのめされた丈さん。そこから自分を慕う後輩の姿に勇気を貰い不死鳥のように蘇る姿を最高に熱いものでした。この敵に敗北してから立ち上がる展開とかとても主役らしいと思います。

ガッチャマンクラウズ インサイト」ではキャラが増えたせいで清音とODとうつつは出番が減らされました。そんな状況でも相変わらず見せ場の多いのが丈さん。丈さんは本心では選挙は国民が自分の意思で未来を託したい候補者を選ばなければならないと考えていますが、ゲルサドラを当選させる戦略を立てた際には意図的に国民が意思を持たず空気に流される方向に誘導しました。

ゲルサドラを当選させないとクラウズを廃止させられず、渋谷テロと同じ事がまた起きて血が流れてしまう。クラウズが起こす事件を阻止する為に望んでいない方法を使うしかない。丈さんはここでも矛盾を抱えながら生きていますね。
その後首相になったゲルサドラの行為が行き過ぎたと判断した丈さんは、責任を感じてたった独りでゲルサドラを倒しに向かいます。この仲間や国民の血が流れる事を嫌う癖に敵は暴力で排除するところは旧来のヒーローだなと思います。

余談ですが前作では清音の姿に心を動かされた丈さんが立ち上がり、今作では逆に丈さんの姿に心を動かされた清音が助けに来ます。あの二人の師弟関係は少ししか描かれていませんが気に入っています。ちょっと愛が重いせいか丈さん語りが長かったかもしれませんが、これで丈さんが隠れた主役と呼ぶに相応しい活躍をしている事は伝えられたと思います。