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小説家になろうはライトノベルに何をもたらすのか

オーバーロード1 不死者の王

オーバーロード1 不死者の王

小説投稿サイトの小説家になろうに投稿されている作品はアルファポリスが昔からひっそりと書籍化していましたが、ライトノベル業界大手の電撃文庫が「魔法科高校の劣等生」を書籍化、エンターブレインが「ログホライズン」の書籍化をした事により、その存在が広範に知られるようになりました。

最近は「オーバーロード」に「Reゼロから始める異世界生活」と小説家になろうに掲載されている作品が次々にアニメ化され、「ナイツ&マジック」や「賢者の孫」と売れている作品も小説家になろうのものが増えてきましたね。ヒーロー文庫オーバーラップ文庫はそれを主力としています。ファミ通文庫富士見ファンタジア文庫スニーカー文庫もそうなりつつあると思います。


小説家になろうに頼らないプロは辛い
小説家になろうから沢山の作品が書籍化される状況は良い面も悪い面もあります。当たり前の話ですがプロになれる道が増えますし、小説家になろう作品は書籍化前からそれなりにファンがついているので売れやすい、書籍化前に数巻分のストックがあれば締め切りが破られる事は少ない、書籍化前に書かれた部分に関しては編集者の意見に影響されづらい、作品が小説家になろうから削除されていなければ購入するかどうか読んでから決められる。

ご覧の通り小説家になろう作品の書籍化は作家、編集者、読者と様々な立場から見ても利点が多いのですが、これらは小説家になろうとは無関係の作家を厳しい状況に追い込むのではないでしょうか。大半の小説家になろう作家は基本的に誰にも口出しされずに自由に書いてきた作品をほぼそのまま出版するのに対して、普通のライトノベル作家は企画を没にされたり、編集者の意見に耳を傾けながら改稿をします。腕の立つ編集者と共に仕事が出来れば、作品の質は向上するかもしれませんが、それでも商業的に成功するかどうかは運に左右されるところが大きい。

不運にも問題を抱える編集者と組まされ、作家が自由に書けずに売れないのであれば精神的負担は増加し、編集者から何度も書き直しを要求されると刊行速度が低下する恐れもあり、そんなこんなで脱稿するのが遅れて半年おきにしか出せない状況が続けば、待たされた読者の熱は冷めて作品は忘れられてしまいます。よほど差別化されていて熱狂的なファンがついている作品でもなければ、数巻分の書き溜めがあり刊行を早めやすい小説家になろう作品にじわじわと客を奪われかねません。小説家になろうには「この素晴らしい世界に祝福を!」みたいに3ヶ月しないうちに新刊が出る作品もあるから競い合うのは大変だと思います。

さらに厳しい事に何割かの小説家になろう作品は書籍化された後も変わらずネットで全部無料で読めるのに対して、普通のライトノベルはレーベルにもよりますが試し読みの大半は数十ページしか出来ません。「いづれ神話の放課後戦争」と同様に半分程度は読めるようにしてある作品もあるにはあるんですけど少ないです。

評判が良いのか悪いのか分からないと手が出せない
小説家になろう作品は購入するかどうか作品を読んでから決められますし、無料で読めるおかげで読者も多いから感想も増え、作品の評判がどうなのかも目に入りやすいのですが、普通の作品はそれらが殆んど無いので購入して読まないと面白いかどうかは判断が出来ません。そうした評判が未知数の作品を買おうと思えるのは、金銭や時間に余裕があるか、ライトノベルがよほど好きでもなければ難しい。

作品の評判が分からないと躊躇して買わず、誰も買わないと感想も増えずに評判が何時までも不明なままになる悪循環。時間を掛けて少しずつ感想が増えた頃には、大多数がその作品の存在を忘れてしまい、買うか買わないかなんて悩みすら生まれず、続巻が出ても興味を持たない。それでは売上は伸びないので出版社は儲からないと判断して静かに打ち切ります。極端な話をしましたが近い事は既に起きていますよね。これに対して小説家になろう作品は発売前から評判が分かるので、市場において重視される発売直後の売上を比較的伸ばしやすいのではないかと。

アニメのみならず漫画までもが無料で読める時代を生きるには、期間限定でもいいから無料で読めるようにして、口コミで作品の面白さが伝わる仕組みを作らないと厳しい気がします。そうしなければ「無職転生」「金色の文字使い」「オーバーロード」等の小説家になろう作品や「エロマンガ先生」「妹さえいればいい。」「Fate/strange Fake」「絶対ナル孤独者」等の大人気作家の新作ばかりに客が集まる傾向は強まるでしょうね。

その方が自分に合いそうな作品に出会える確率は高いですから。近年は結果が出なければ3巻も出せずに打ち切られたりもするそうですが、これに加えて知名度の高い作品ばかりに客が集まるようになると、作家に平均以上の実力があるとしても生き残れるかどうかは分かりません。

小説家になろうが新人賞の価値の低下を招いてしまう
さて小説家になろう作品が売れるようになり、それ以外の作品が次々に打ち切られると何が起きるかといえば、新人賞の価値の低下が考えられます。小説家になろうでは異世界ものしか支持されないなどの問題はありますが、最近は小説家になろうを通してプロになる方が成功しやすく、こちらの方が自分の好きに書けるだろうと考える人達が増加すれば、新人賞の応募総数が減ると同時に質の高い作品も減ります。小説家になろうに投稿していた方が成功すると考えるのはプロも同じらしく、小説家になろうを利用して知名度を高めようとする作家もじわじわ増えてきています。

話を戻しますが、ラノベ作家志望者から新人賞の人気が落ちて授賞作品の質が下がり、出版社が予想していた以上に売れないとなると、そこに費やした時間と金が割に合わないと判断されてしまい、今よりも小説家になろうに頼ろうとするレーベルも現れるかもしれません。オーバーラップ文庫のように小説家になろうに依存しているレーベルはそこから良作を拾い上げ続ける為にも、小説家になろうの作品を安易に打ち切りにして悪評を立てるわけにはいかないので、打ち切りの対象は小説家になろうと無関係の売上が小さい作品に向きやすいでしょうね。

その様な状況に陥る場合、小説家になろうにおいて受けが悪い作品を書きたい作家は、その内に打ち切りを回避しようと小説家になろうに頼らないガガガ文庫電撃文庫を選ぼうとすると思いますが、それが将来的にレーベルに何をもたらすのか注目しています。短期的には小説家になろうを利用するレーベルが絶対に儲かると思いますが、それを利用するレーベルが落ち目のところばかりで、安定して利益を上げるレーベルは利用しない方針であるところを見ていると、長期的には失敗しそうな気がするんですよね。甘い汁を吸えそうなところに儲けようとする連中が集まり、壮絶な奪い合いが起きて旨みが消えるなんてのはラノベに限らず、ありとあらゆる市場で起きています。先行者利益を得られるのは3年前位に手を出したヒーロー文庫あたりまでかなという気がします。

理想としては小説家になろう作品が次から次へとアニメ化、普段はアニメや漫画しか見ない視聴者がそこから作品に興味を持ち、小説家になろうで無料公開されているそれらを読み始め、ラノベを読む癖が身に付き購買層にまで成長して、ラノベ市場が拡大して小説家になろう以外の作品にも興味を持つといいのですが、さすがにそんな都合のいい事はそうそう起きないですよね。

という事を書いてる間に小説投稿サイトを角川が立ち上げると発表されたわけですが、これは小説家になろうラノベにどの位の影響を与えるのか気になります。個人的には小説家になろうには変化は生まれないのではないかなと思います。こういう投稿サイトは利便性よりも利用者がどれだけいるかで価値が大体決まりますから、5年前ならまだしも巨大になり過ぎた現在の小説家になろうの地位を脅かす可能性は低そう。

角川は散々小説家になろうのお世話になっていますし、積極的に競合して利用者を奪おうとする理由があるとは思えないので、小説家になろうでは評価されない作品を生み出す場を作るのが主目的な気がします。小説家になろう異世界召喚転生や悪役令嬢が売れているとはいえ、それだけしかないとそれらに興味のない読者は次第に離れてしまいますから、長期的に産業を育てる為にも様々なジャンルの傑作が発掘される場は必要だと思います。現状では「君の膵臓を食べたい」のような小説家になろうでは風変わりな作品は埋もれがちですから。

君の膵臓をたべたい

君の膵臓をたべたい

角川の小説投稿サイトでは「涼宮ハルヒの憂鬱」「フルメタルパニック」「オーバーロード」「バカとテストと召喚獣」等の作品の二次創作が公式に認められるそうなので、現時点ではどうやらそこが小説家になろうやその他小説投稿サイトとの差別化要素になるみたいですね。将来的には二次創作を書籍化して「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」みたいに大人気作品の派生作品を増やして儲ける作戦なのかもしれません。角川はスピンオフやアンソロジーを出すのが好きなので、その可能性は高いのではないかなと思います。

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