アニメごろごろ

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「アイカツスターズ」スライムから女神へ成長を遂げた3DCG


白鳥ひめが目を閉じながら、視聴者の方へ歩み寄る。このカメラワークをS4決定戦で採択したスタッフは天才に違いない。狙っていたのか分かりませんが、ほんの一瞬だけ映される姿はキスを迫る様に見えました。

突然、何を言い出しているのかと思われるかもしれませんが、変態的な発言は本題ではありませんので、取り敢えず話を聞いて下さい。ご覧の通り、ダンスの振り付けは同じでもカメラの位置を変えれば、視聴者に与える印象は変わるもの。

そこに作り直された3DCGが加われば、視聴時の衝撃と興奮は何倍にも膨れ上がることでしょう。その変化が最も感じられたステージが、作中で幾度も歌われてきた「スタートライン」でした。

放送開始直後は前作と比較されて否定的な意見も散見された「アイカツスターズ」の3DCG。しかし制作を担当するサンライズD.I.D.スタジオがノウハウを蓄積したことにより、99話にもなると1話とは比べ物にならない程に成長しました。

本稿ではそんなアイドルの成長と共に変わり続けたCGの技術を語りたいと思います。あまり深く突っ込んだ話はしていないので、簡単に変化を押さえておきたいファンに向けた内容になります。


初期のCGはドレスの揺れ方は綺麗ではあるものの、口の動かし方にはまだまだ欠点が見られました。画像は1話と49話のステージ中に「い」と発音するシーンになるのですが、並べると口角の形状が違うことが分かると思います。

通常、口角は「い」や「お」など発音時の口の動きに合わせて、丸くなったり、鋭くなったりします。ところが1話のひめ先輩の口角は曲線を維持したままで、また上の歯も作られていない為に、スライム風の間の抜けた顔になるシーンもしばしば見られました。

これはこれでカワイイかもしれませんが、改良の余地は残されていますね。このクオリティでクリエイターが満足するはずもなく、CGモデルは1クールが経つ頃から少しずつ作り替えられていきます。それでは具体的に画像で比較していきましょう。


11話と16話の比較。16話から睫毛に小さなハイライト、上の歯が付け加えられます。そして口を閉じた時に描かれるラインが、中心に向かうに連れて薄れて消えます。ラインが途中で消える程に上唇と下唇を強く結ぶ。そこには一切の隙間が生まれない。こうした口の描き方は10年代の主流であり、キャラデザを担当した愛敬由紀子さんも当たり前の様に採用しています。

今では自然に受け入れられていますが、口が左右に分かれているみたいで不思議な描き方ですよね。人体の構造的に口を閉じて笑みを浮かべる時は、口の端の影が濃くなるものですから、その濃淡を表現する意図でラインの両端を濃くするなら分かります。本来ならそうするところでしょう。

ところが逆にラインの中央を消してしまうことで、相対的に両端の影を濃くしています。思い切った表現ではありますが、こちらの方が唇は柔らかそうに見えますし、90年代と比べて薄い顔が増えた時代には適していますね。


27話の「So Beautiful Story」を境に、CGモデルには更なる改良が行われます。画像上の22話からの変更点は口の大きさ、髪の揺れ方。以前は両目の間隔と同じ幅まで開いていた口も随分と小さくなりました。ちなみに口の開き方はアイドル毎に個性があるようで、妖精アイドルのアリアは口を大きく開きません。アリアとゆめが歌う「森のひかりのピルエット」のステージを観れば、そうした口の開き方の差は感じ取れるでしょう。

次に髪の揺れ方ですが、主に顔の横にかかる部分が変更されました。ここはCGを動かす時の大事なポイントで、揺らさなければ不自然に映りますが、あまりに揺らし過ぎてしまうと髪の形が崩れて、そのキャラらしさが失われてしまいます。ポーズは変わらないとしても、髪の揺れ方で印象は大きく異なるもの。22話の左側のぐにゃぐにゃした横髪を見れば、言いたいことは何と無く伝わりますよね。そこのバランスは難しい。

22話のフィッティングシークエンスなんかは、回転時に横髪が最大で地面と水平の位置まで浮かび、もみあげ付近の禿げた部分が映されてしまいました。スカートと一緒で髪も考えなしに揺らしてしまうと、本来なら見えてはならないものが見えてしまう。そうした事態を阻止する為に髪を動かす時は、キャラのイメージを壊さない揺れ方の微調整が必要。その点は後にきちんと修正されていました。


ドレスが変わる度に作り直されてきたCGモデル。ひめ先輩に関しては27話のシークレットダイアリーコーデの時点でほぼ完成しており、99話のフィッティングシークエンスも27話のモーションを使用しています。余談になりますが、49話のフィッティングシークエンスとスペシャルアピールは、何故かブラッシュアップされた27話の方を使用しないで、11話のモーションを使用しているんですよね。

先述した11話と49話は共にドリーミングプリンセスコーデを着用してのステージ。どうやらドレスが同一のものであるならば、過去のモーションを使い回す方が都合が良い様です。49話のスペシャルアピールの方は上の歯が見えないことから、CGモデルまで完全に使い回しているものと思われます。

まあ普通に観る分には気が付かない僅かな差ですし、S4決定戦のステージラッシュにクリエイターが耐えるには、そうした力を抜ける場面で休息する技術も求められるのでしょう。この少し後にひめ先輩やリリィ以上に動かし難そうな髪型のエルザが待ち受けていましたしね。


ここまで技術の進歩を振り返り改めて思いましたが、「アイカツスターズ」のCGも知らない間に遠い所まで来ましたね。1話では目の動き方もシンプルでぱっちり閉じるか、しっかり閉じるという極端な状態でしたが、それも次第に改善されて目を細める頻度は増加し、それに伴い元気よく笑う顔から慈愛に満ちた優しい顔まで、感情表現のバリエーションが広がりました。

セルルックの表現が格段に向上した今では、気を抜けばCGなのかセルなのか見ても分かりません。最初は厳しい声も聞こえましたが、世間の荒波に負けずに力を尽くしたおかげで、この領域まで辿り着きました。そして「アイカツスターズ」のステージで技術を磨いた先に「アイカツフレンズ」の素晴らしいステージが生まれました。これから「アイカツフレンズ」が渡されたバトンを手にどこまで行けるのか、考えただけでワクワクが止まんないよ。