アニメごろごろ

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「アイカツスターズ」安藤尚也演出回の光り輝く撮影処理


スパイスコードが如月ツバサから桜庭ローラへと受け継がれる。62話はローラの成長が伝わる脚本も素晴らしいものでしたが、それを魅せる為の演出が感動して言葉を失う見事な出来でした。あまりのクオリティーの高さに「この回を作ったのは誰だぁっ!」と思いながら演出と絵コンテの担当をスタッフクレジットで確認しました。

その担当は真昼初登場回、ブロードウェイ回、冬フェス回、エルザ初登場回も演出した安藤尚也さん。60話を越える「アイカツスターズ」の中でも屈指の良作が並びます。

安藤尚也演出回で傑作と呼べる回が一度しか無ければ、その回が予算や作画監督や制作進行に恵まれただけかもしれません。アニメは集団で生み出す総合芸術なので演出以外の要素も大きく、共に組む機会が多い作画監督の宮谷里沙さんのおかげもあるでしょう。ですが何度も良質な映像を披露しているとなると運に恵まれただけとは決して言えません。

優秀な人材が集まる回や予算を注いだ回を任されるのも本人に実力があればこそ。新シリーズの始まりとなるエルザ初登場回や一番目のOPの演出等、作品の顔と言える大切な箇所を任されているので、恐らくは期待されている演出家なのでしょう。



安藤尚也演出回で印象に残るのはカメラとライトの使い方。カメラの位置を固定したまま上下や左右にカメラを振るPAN、それ自体はアニメでありふれた演出ではありますが、安藤さんが関わる回では通常よりも一手間かけています。普段は労力が掛かる為に人物と背景を合成した状態でまとめて流しますが、上記のシーンでは手前の人物と奥の背景を別の画として分け、各々を異なる速度で流してカメラが右から左に回り込むような立体感を空間に与えています。


工夫としてはカメラのピントずれも押さえておきたいところ。ランニング中に真昼の短冊に気が付き足を止める夜空。ここではカメラがピントを短冊から夜空に合わせるまでのタイムラグを表現しています。この表現は小春から朝陽が初めて話す時にも使われており、話し手が小春から朝陽に変わるとカメラのピントも小春から朝陽に移り、視聴者の意識もそちらに誘導するようになっていました。

安藤尚也演出回の魅力は原画や動画だけで無く、上に書いたような撮影が担う部分も大きい。「君の名は」の新海誠監督と同様に最終工程となる撮影を非常に重視している演出家であることは、長々と言葉で説明せずともアニメーターが作り上げた映像をより一層輝かせるライトを見れば一目瞭然。一番上に載せたシーンがそれを語っています。


さて映像美は沢山のクリエイターの手で生み出されるものであると書いてきました。しかしそれには映像の設計図と言える絵コンテが必要不可欠。安藤尚也さんはこの絵コンテを作る力も優れています。四ツ星学園の各組が競い合う冬フェス回は絵コンテの完成度が高く、前半と後半の月を用いた比喩は記憶に刻まれる強烈な映像でした。

冬フェスで美組を優勝に導くと誓いを立てる夜空と真昼。初登場時には夜空に対抗心を燃やし険悪な態度を見せた真昼が、今は同じ美組の仲間として姉妹として共に戦う為に夜空と手を月に向かい重ね合う。香澄姉妹を応援してきた視聴者の感情を動かすには十分な威力を持つシーン、これは単純に映像として美しいことに加えて冬フェスの決勝戦を魅せる大切な布石でもあります。

冬フェスにおける優勝の座を表した空に浮かぶ月、そして夜空が決勝戦のステージ用に準備した三日月。冬フェスの前日には真昼の隣に座り共に月へ手を伸ばしていた夜空が遥か遠い月の側に行ってしまう。前半で月を用いているからこそ、後半に夜空と現れる月のインパクトが強まるという計算の上に成り立つ演出。

姉と肩を並べるにはまだまだ先は長いですが、夜空の最高のステージに実力差を感じても、それでも真昼は勝つ事を諦めようとはしません。それは三日月に手を伸ばし握り締める真昼の姿に表れています。

演出の話からはずれてしまいますが、決勝戦に備えて三日月を作成する本気の夜空が色々と凄くて戦慄を覚えます。決勝戦まで残らなければ夜空の用意した三日月は無用の長物、不運にも努力が無駄に終わる可能性を理解していながら、それでもなお決勝戦で絶対に勝つ為の計画を進める。夜空がS4に選ばれた理由もまた努力を惜しまないところにあるのでしょう。この先の先まで考えて行動した夜空にツバサが破れてしまうのは仕方が無いなと思います。


心に響く映像を演出する準備を怠らない。それはスパイスコード継承回にも当てはまります。この回のラストカットはアイドルを指す空に輝く星々を反射した紅茶が映され、そこから画面がオーバーラップして海外に羽ばたいたツバサを見守るホーちゃんが映される場面で終わります。

スパイスコードを含めた新しいブランドを授けられたアイドルを手中に収めるエルザ、その事を彼女が手に持つ星々が映る紅茶で例える演出はとても美しいのですが、最後の最後にホーちゃんが登場する演出も負けていません。この演出の見所はそれまでにホーちゃんが描かれていない点にあります。

この回のAパートにはツバサがホーちゃんに語り掛けるシーンがありますが、そこでは夕日に照らされるツバサがひたすら映されるだけでした。普通ならこのシーンはツバサが話し掛けるホーちゃんがフクロウであることを視聴者に改めて伝える為にその姿を描きます。ホーちゃんが前に出て来たのは数ヵ月前、視聴者の中にはその存在を知らない方もいるので、それを映像で説明するのは演出として正しい。

そう考えていたので最初に鑑賞した時は、久しぶりに登場するホーちゃんをどうして描かないのか疑問に感じていました。しかし最後まで見ればラストカットのインパクトを強める為にあえてAパートでは控えていたのだと分かります。わざわざAパートで描かなくても視聴者ならホーちゃんのことを覚えているはず。そんな風に視聴者を信頼して親切な説明を削ぎ落とし、ラストカットの意味の強度を上げる方向に力を入れる思い切りの良さに唸ります。

安藤尚也さんは「アイカツスターズ」を見る迄は名前を知りませんでしたが、仕事が丁寧で今後も傑作を生み出す予感がするので、これからは積極的に追い掛けていきたい演出家ですね。制作進行から始めた演出家には立派な監督になった方も少なくないので、もしかしたら安藤尚也さんもその域に登り詰めるかもしれません。今後の活躍を期待しています。

taida5656.hatenablog.com
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