アニメごろごろ

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3巻の壁を越えて本が出せるライトノベルレーベル

ラノベは昔と比べてアニメ化やコミカライズ化が増える嬉しい動きがある一方で、人気の無い作品が早期に打ち切られる悲しい動きも見られます。最近は3巻打ち切りどころか2巻で打ち切られるなんて意見も聞きますが、打ち切り決定の時期はレーベルによって差が見られ、3巻の壁を超えて綺麗に幕を閉じる作品が多いレーベルも中にはあります。そうしたラノベの現状を考える為に、今年刊行されたラノベが現在何巻まで出ているのか、レーベル毎に巻数を表示したグラフを作成しました。今年に刊行された作品であれば完結したものから、数日前に刊行されたものまで含んでいます。

グラフはオリジナル作品の現状を知る目的からゲームやアニメのノベライズは除外、巻数は本編と短編集と一部の外伝を併せた数字にしています。一部の外伝は本編のメインキャラが主人公の作品と定義、具体的には「はたらく魔王さま!0」や「この素晴らしい世界に爆焔を!」を指します。まあこの辺の細かい条件は適当にしたところで、グラフの見た目には殆んど影響しないので気にしないでいいです。


市場のリーダーとチャレンジャーの立場にある電撃文庫とMF文庫は人気が出れば20巻以上続けられ、高確率でアニメ化される夢のあるレーベルですが、内部での競争が厳しく頻繁に打ち切られてしまいます。現時点で3巻に届かない作品が全体の半数を占めており、この内の半分位は物語の幕を閉じないまま放置されて誰も知らない内に消えてしまいます。

電撃文庫でその厳しい競争を生き延びた最近の作品は「マンガの神様」や「いでおろーぐ!」などの新人賞受賞作品、「ドウルマスターズ」や「青春ブタ野郎」などのアニメ化作家の新作に集中していますね。それ以外の若手作家や中堅作家は執筆の意思があっても4巻まで出せる確率は1割もあるかないかだと思います。「竜は神代の導標となるか」と「レオ・アッティール伝」は幸運にもそこまで出せましたが、前者は残念ながらそれと同時に打ち切られてしまいました。電撃文庫は打ち切られても新作を書かせてくれるとはいえ、ここまで3巻を越えるのが難しいと心が折れてしまいそうです。

最近の動向からすると電撃文庫はアニメ化作品が完結する前に新作を書かせてファンを取り込み稼ぎつつ、新人賞に注力して未来のアニメ化作家を育てようとしているのかもしれません。仮にそれが本当だとしたらラノベ作家志望者にはそこそこ優しい場所なのではないでしょうか。特に小説家になろうで評価されない系統の作品を執筆して、出版社から書籍化の声がかからない人達には都合が良さそうですね。少なくとも大手レーベルで体力があるにも関わらず、新人賞受賞作品が簡単に打ち切られてしまうMF文庫と比較したら電撃文庫は好条件だと思います。

MF文庫が新人賞を重視していないのか、偶然新人賞受賞作品が微妙な出来で売れないだけなのかは分かりませんが、大成功した作品は電撃文庫ファンタジア文庫と並べると少ないですよね。大成功した作品を探してみたら「変態王子と笑わない猫。」まで遡る事になるなんて考えてもいませんでした。MF文庫の規模で新人賞からアニメ化作品がもう5年以上も出ていないとは驚きです。

オーバーラップ文庫で3巻以上続いた作品における小説家になろう作品の割合はおおよそ8割。ちなみにその8割に含まれていない作品はアニメ化もした「灰と幻想のグリムガル」と新人賞を受賞した「戦華の舞姫」。グラフを見る限りは打ち切りも少ない風に見えますが、小説家になろうに属さない作品が1巻で打ち切られた事実を考慮すると、オーバーラップ文庫小説家になろうで書いている人以外に向きません。

GA文庫電撃文庫と同様にアニメ化作家のほぼ全員に同時平行で新作を書かせています。ただしこちらはアニメ化まで到達する見込のある作品はまだ「りゅうおうのおしごと!」以外には無い様に見えます。GA文庫がアニメ化作家に新作を書かせる事情は分かるんですけど、肝心のアニメ化作品の刊行がその影響を受けて遅れているので、新作を書かせるのは完結した後にして欲しいですね。


ゲームのノベライズを除外すると2巻以下の作品が8割近いファミ通文庫は、物語が開幕と同時に閉幕する確率が極めて高く、続刊やアニメ化は期待しない方が賢明だと思います。ファミ通文庫の打ち切り率の高さは3巻以上続いた作品の少なさから感じ取れます。人気の高い作品が次々に完結した事で主力がゲームのノベライズと小説家になろう作品と不安を感じずにはいられません。

ファミ通文庫に対しては「廃皇子と獣姫の軍旗」でイラストレーターが誤って提出した未完成のイラストをそのまま挿絵に使用した事など個人的に良い思い出が無いんですよね。挿絵に問題があると発覚したなら、せめて電子書籍版では修正して欲しい。私が知らないだけかもしれませんが、それに対する謝罪文が出されていないのはどうかと思います。

今年のスニーカー文庫は数年前に完結した名作「サクラダリセット 」の実写映画化とアニメ化が決定、一度は打ち切られた「終末なにしてますか?」が口コミで話題となって奇跡の復活からアニメ化決定と誰も予想していない出来事が重なりました。

一時期「新妹魔王の契約者」や「魔装学園H×H」などのエロ系の作品に注力したかと思ったら、突然真逆の方向で攻めるスニーカー文庫は評価に悩みます。少人数で仕事をしているからこそ、この様な柔軟な対応が出来るのではないかと。スニーカー文庫カクヨム作品の書籍化も進められていますし、今後数年は何が起きるか分からないレーベルなので先が楽しみ。ところで「ラストエンブリオ」と「東京侵域」の新刊は何時になったら発売するのでしょうか。


漫画が打ち切られる場合は不恰好でも物語の幕は一応閉じられるものですが、ラノベが打ち切られる場合はそれすらさせてもらえずにただ続巻が出ないだけ。ラノベにはその様な悪い意味での終わらない物語がとても多いです。そうしたラノベが世の中に溢れる中、5巻まで刊行され綺麗に完結する作品の比率が高いガガガ文庫。先程のファミ通文庫のグラフとは中身が全然違いますね。

今年完結した「不戦無敵の影殺師」はエピローグまで丁寧に描かれ、あのテーマで見たい内容は十分見せてもらえたので、読者的にはもう何も思い残す事は無いです。ガガガ文庫はメディアミックスに期待出来ませんが、人気作品を無駄に薄めて引き延ばしませんし、作家に続ける気があれば3巻までは何とか面倒を見ようとしますし、多種多様な作品を受け入れる素晴らしいレーベル。

ファンタジア文庫小説家になろう作品を連続して書籍化した時は不安を感じましたが、それ以降は書籍化は落ち着き自分達で作品を育てる方向に進んでいます。電撃文庫とMF文庫の新作が過酷な競争で殆んど消えてしまうのに対して、ファンタジア文庫は「アサシンズプライド」や「いづれ神話の放課後戦争」や「できそこないの魔獣錬磨師」など5巻を越えた層が厚い。

それもアニメ化作家や小説家になろう作家と特定の人達だけが続いている訳では無いんですよね。「リゼロ」や「このすば」みたいな大成功しそうな作品が少なそうなので、編集者の立場では望ましい状態とは言えない気はしますが、作者と読者の立場では理想的な状態にあると言えると思います。ただこれが再来年まで維持されているかは分からないですけど。



追記 3月20日
上記のグラフだけでは精度の低い情報しか得られない問題がありましたので、追加で15年に開始した作品が現在何巻まで刊行されているのかまとめたグラフを下に貼り付けました。グラフ作成の都合で最新刊の発売から8ヶ月が経過しても続刊が出ていない作品に関しては、完結が明言されていない場合でも完結したと見なしています。ノベライズやスピンオフは除外、グラフの下に集計した作品の数も記載しておきます。


電撃文庫 54作品
MF文庫 39作品

電撃文庫には「雨の日のアイリス」や「紫色のクオリア」など作者が評判の良し悪しとは関係なく続ける気の無い作品もあるとはいえ、グラフを見る限り1巻で完結する作品が結構な頻度で現れています。MF文庫の方でまだ完結していない作品は「ようこそ実力至上主義の教室へ」と「エイルン・ラストコード」と「異世界ならニートが働くと思った?」と少ない。上にも書きましたが、電撃文庫とMF文庫はレーベル内の競争が厳しい模様。


オーバーラップ文庫 22作品
GA文庫 21作品

オーバーラップ文庫小説家になろう作品が健闘している裏で打ち切り作品も多い。「君から受け継ぐ英雄系譜」や「悪役、はじめました」など編集者が時間を掛けて選んだ新人賞受賞作品が呆気なく打ち切られる状況はまずい気がします。一昨年開始した作品を見ると小説家になろう作品以外が3巻まで出せる確率は7%、小説家になろう作品が3巻まで出せる確率は85%。小説家になろう作品で3巻まで出ていないのは「転生!異世界より愛をこめて」だけですね。


ファミ通文庫 27作品
スニーカー文庫 23作品

ファミ通文庫で一昨年開始してまだ完結していないのは小説家になろう作品の「賢者の孫」と「奪う者 奪われる者」。こちらは両方とも漫画化しています。スニーカー文庫の「天空監獄の魔術画廊」はメディアミックスが行われず、5巻で静かに完結してしまいましたが、囚人の身体の隅々まで検査する場面があるので、漫画化されていれば注目を集めたかもしれません。


ガガガ文庫 21作品
富士見ファンタジア文庫 21作品

富士見ファンタジア文庫は3巻を越えるのは難しいですが、3巻まで出せる確率は高く他所のレーベルと比べると待遇は良いと言えます。現在も続いている「ゲーマーズ」と「できそこないの魔獣錬磨師」と「いづれ神話の放課後戦争」は全部漫画になりました。ガガガ文庫の場合は小学館ラノベを重視していない為か作品が続いてもこうはいきません。


ダッシュエックス文庫 30作品
HJ文庫 17作品

今回新たにダッシュエックス文庫とHJ文庫も調査しました。普段は目にする機会が少ない為に知らなかったのですが、HJ文庫は意外と続きが出せるレーベルなんですね。スーパーダッシュ文庫を継承して創刊されたダッシュエックス文庫は苦戦しているらしく、一昨年開始した作品で3巻を越えたのは「英雄教室」と「異世界Cマート繁盛期」と「サクラ×サク」のみでした。ラノベ作家は漫画家と比べて楽になれると言われる職業ですが、こうしてグラフを見るとプロとして作品を続ける事が如何に大変なのかは想像に難くない。編集者がラノベ作家に兼業を勧める理由も非常に分かりますね。

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