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水上悟志作品のコマ割と構図の巧さ

【3段組み】漫画を描く際にメリハリのあるコマ割りを心掛けようというお話【画面作り】 - Togetter

上記のコマ割に関する話に出てきた水上悟志先生の漫画を見てから「惑星のさみだれ」や「戦国妖狐」を読み返していました。毎回読む度に思っているんですけど、水上先生の漫画はとても読みやすく迫力がありますね。その迫力が何から生まれているのかを考えた時、最初に浮かぶのはコマの視点を上下に振る事で表現された空間の立体感。


最初のコマの右下から三日月を見上げる夕日が、次のコマでは掌握領域を足場にして加速、その次に左上に向かう夕日の姿に効果線と台形のコマを併せて勢いを与え、そして右下のコマで夕日は左上に抜けて三日月が展開した掌握領域のさらに上空まで跳ぶ。最初の上空に掌握領域を展開した三日月に夕日が見下ろされるという窮屈なコマがあるからこそ、夕日がそれらを跳び越えて何も無い空まで到達したコマに解放感が生まれる。

水上先生はこの様にローアングルとハイアングルを使い、二次元の世界に三次元の世界と同じ空間の広がりを表現するのが抜群に巧い。「戦国妖狐」の月湖がムドに喰われそうになる場面も空間の表現が素晴らしく、手前に迫り来るムドの迫力には言葉が出ません。その後にあるムドと月湖の対決もとても惹かれました。



ムドの攻撃を易々と避けられる理由を問われ、相手の目を見れば分かると答えを返した月湖。達人的な回避を可能にする月湖の優れた観察眼、最後のコマでは月湖の眼以外にトーンを張り付け、白と黒のコントラストで肝心の眼を強調しています。

相手に集中して何時も以上に開かれた月湖の眼が、ページの半分を占める大ゴマで描かれる衝撃は大きい。普段は目を開かないからこそ映える。戦闘において目の前の敵を観る事は大切、それは千夜に気を取られて月湖から視線を逸したムドと僅かな隙を逃さず突いた月湖が証明しました。



上記以外で印象に残る表現いうとキャラの表情すら見えない位にカメラを引く事ですね。キャラを見せる事を重視してアップを多用する漫画家もいますが、水上先生はそれをしないでロングを使いながら、戦闘中に敵や仲間との位置関係を示したりもします。「惑星のさみだれ」は騎士団が組んで戦う作風なので、各々が何をしているのかを読者に伝える為にも俯瞰するロングは重要な役割を担っていたと思います。

ロングはキャラが小さく描かれる為にボクシングみたいに接近して殴り合う場面には向きませんが、アニムスがしたみたいな地形を変える程の大規模な破壊を行う場面には向いていますね。ロングの使い方では成長した真介が八本松剣鬼を空まで吹き飛ばす場面が素敵でした。



色々と読んで気が付いた事なんですけど、水上先生は魅力的な絵を描いてはいるものの、コマ割自体は素人でも使える三段組みなどのシンプルなものが割と見られるんですよね。それでも読むと引き込まれてしまうから凄いなと思います。シンプルなコマ割でも魅せる例としては「醒誕祭」の上記の場面。普通は単調にならないようにコマにメリハリをつけるものですが、ここでは逆にコマと構図の変化の乏しさによって、雨に濡れても動じない不気味な女性の死んだ心を表現しています。

この話はコマからはみだして書かれる大雨の効果音もいい味を出しています。車が接近した時の音、車が人を轢いた時の音、ドアを閉めて逃げた音、それらを表す文字と比較して大きな文字で書かれる雨が振る音。ちなみにこの雨が振る効果音は数ページ先まで書かれ続きます。実際には読んでも音は聞こえませんが、これだけでも雨が強い事が感じられるのだから、漫画というのは本当に奥が深いですよね。

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