アニメごろごろ

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「幽遊白書」から進化した「HUNTER×HUNTER」のコマ割と構図

漫画を描き続けていれば、自然と技術が磨かれて画力や絵柄は変わる。それはコマ割や構図にも当て嵌まる話。冨樫義博先生は「幽遊白書」を描き始めた時には、基本に忠実なコマ割や構図が目立ちましたが、「ハンターハンター」の連載を開始した頃には、他の漫画家には見られない個性的な表現が増えてきました。

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目は口ほどに物を言う
横長のコマを用いてキャラの目元を映す。冨樫先生の表現技法の中でも、独特かつ多用されているものがこちらになります。会話が中心で表情を見せる事に重点が置かれる選挙編では、何十回も使われていたので記憶に残った方も多いのではないでしょうか。

一般的に口元まで描かれた方が情報量は増え、キャラの内に秘めた感情も表現しやすいですが、冨樫先生はそこまで描かずとも瞳の光の入れ方や背景に貼り付けるトーンの柄、眉毛の形やデフォルメの度合いや汗のかかせ方で心の機微を表現します。

この表現は口元まで映さずに目元のみを映している分、キャラを描く為に使うスペースを抑えられる点も長所。顔全体をページに収める場合はコマに対して顔を小さく描くか、顔の細部まで見える様にコマを大きく描かなければなりません。

前者は顔が小さく表情が読み取り難く、後者は必要以上にスペースを取る問題が生まれますが、顔全体ではなく目元のみ入れるのであれば上記の問題は避けられます。必要最低限の情報を最小限のスペースで伝える。それは1話あたりのページ数が少ない週刊漫画家に必要な技術になると思います。

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冨樫先生の意図は分かりかねますが、この表現はページを読み易い様に区切る効果も持ちます。漫画は基本的にページの右上、左、右下、左の逆Zの順番で視線を移動させて読みますが、時には視線が上や右に戻る場面もあります。漫画に読み慣れた人達は感覚で読む順番を掴めますが、漫画を殆んど読まない人達には意外と負担になるようです。

上記の横幅を目一杯使用したコマを読む時には、視線を上下左右に動かす複雑な読み方は行わずに、4コマ漫画と同様に素直に上から下に読めばいいだけ。この画面を整理する役目も果たすコマが挟まれているおかげで、コマ数が増えてごちゃごちゃしてきた時でも読者は負担を感じることなく易々と読めます。

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小さなコマを飛び出す激しいアクション
戦闘時に迫力を出す為には「史上最強の弟子ケンイチ」の松江名俊先生が好んで用いる見開き1ページや大きなコマを使うのも手ではありますが、それ以外に複数のコマを使うからこそ出せる迫力も幾つかあります。

キルアとサブの戦闘の遠近法を活かして手前に描かれたヨーヨー。本来なら小さな玩具のヨーヨーを遠近法で巨大に見せ、当たれば痛いなんかでは済まなそうな力強さをヨーヨーに宿しています。

それに加えてヨーヨーをコマから飛び出す様に描いておけば、読者に二次元の漫画に立体感を与えられ、手前に迫り来るヨーヨーの圧迫感と加速度を高められます。

もしもこの2コマをそれぞれ1ページで表現した場合は後者の効果は得られませんし、2コマ目の方には状況的に迫力のあるヨーヨーが画面内に入らない為に、サブの顎に命中した時にその威力を読者が感じ難いという欠点が生まれます。これは1ページを丸々消費する大きなコマを使いさえすれば、迫力が出せるわけではない事が分かる好例。

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右下のゲンスルーはヨーヨーの時とは異なり、コマの枠を無視して飛び出すどころか、最初からどのコマにも属していません。隣り合うコマにキャラが僅かに飛び出すことは「ゴールデンカムイ」など様々な漫画で見られますが、例に挙げたゲンスルーのように蹴りを入れた足でゴンの属するコマを分割する程に侵食するのは珍しい。

ここで説明した特定のコマにキャラが収められていない状態は、ネテロとメルエムの戦闘など「ハンターハンター」では何度も出てきます。

小さなコマに縛られずに大胆にはみ出させる。画面に情報を詰め込み過ぎな「ワンピース」の尾田栄一郎先生が、これを行うと非常に読み難いものになってしまうでしょう。

しかしながら、背景や服装の細部まで描かない淡白な絵を描く傾向の強い冨樫先生の場合は、その程度は些細な問題で読み難いものになる心配はありません。自分の絵柄に適した表現を使いこなす重要性を感じますね。

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目にも止まらない速い動きの見せ方
マフィアの目の前から一瞬で姿を消したフェイタンとフィンクス。上記の場面では銃を向けるマフィアを動かさずにフェイタンとフィンクスを動かす事で、マフィアでは反応不可能な速度で移動している事を表現しています。見れば分かるからわざわざ言うまでもないですけど、目で語る表現はここにも取り入れられています。

アングルを固定したままにすることは、上と下のコマで状況的に変化した箇所が何処にあるのか差異を強調する効果の他にも、漫画内における時間の流れを遅めてそこで描かれているものが一瞬の出来事である印象を強める効果があります。

この表現は戦闘開始直後のクロロとシルバとゼノにも見られますね。冨樫先生が素早い動きを表現する方法は上記以外にもあります。

 

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それが画像の下の方にあるクロロとシルバとゼノの攻防。シルバの方に気を取られたクロロの隙を突いて攻撃を仕掛けようとするゼノ、そのゼノの行動に気付いてクロロが視線を移した時、ゼノの手から攻撃が放たれる瞬間が見える。

このコマとコマの間には白い余白は作られず、隣り合うコマは細い線だけで仕切られています。コマとコマの距離は時間的な間も意味するので、それを極限まで細める事によって彼等の行動が、僅かな時間の中で起きた出来事という風に演出されています。

これは冨樫先生以外もそこそこ用いる表現で、大抵の場合は作中で何か衝撃の事態が起きて、それに同時に反応する複数のキャラの表情を見せる際に使いますね。冨樫先生がこの表現を戦闘で使う例としては、ドッジボールにおける念人形の高速パス、ジャジャ拳を連続使用してナックルを背後から殴る瞬間が挙げられます。

蝙蝠を捕まえたキメラアントの女王が描かれた場面では、先述したアングルの固定とコマの間を詰める表現の両方を用いていました。

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さて、ここまで長々と説明してきた演出の集大成と言える場面がヒソカ対クロロ。冨樫先生が気合を入れて描かれた戦闘には、それまでに磨かれた技の数々が詰め込まれているので、是非ともコマ割や構図に注目して読んでみて下さい。

 

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