アニメごろごろ

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「魔法科高校の劣等生」の入学編をきたうみつな先生と森夕先生はどう描いたか

漫画の「魔法科高校の劣等生」と「魔法科高校の優等生」は原作小説の入学編を達也視点と深雪視点から描いています。視点が異なるとはいえ両作品とも入学編を扱っているので話の流れとしては完全に被ってしまっているところがあります。単純に物語だけを見るのであればこのことはつまらないと感じるでしょうけれど、漫画として両作品を比較して読むとその演出の違いが見えて非常に面白いです。


例えば画像にあるテロリストを深雪が魔法で攻撃する場面ですが、達也が主人公である「劣等生」では深雪のこの活躍は小さいコマで済まされています。これが「優等生」では深雪が主人公ということもあってか、豪快に1ページを使ってその活躍を際立たせていますね。基本的なポーズは同じですが「優等生」では深雪の顔に影を付けて表情に凄みを加え、深雪の伸ばす右手を大きめに描きこちらに対して圧迫感を与える表現をしています。そして深雪の身体が映りこんでいない左右下隅の空いたスペースに、深雪の攻撃を受けたテロリストとその惨状を見ている壬生の表情を描き、1ページにおける情報量を少しでも増やそうとします。

これは剣道部の騒動の時の渡辺先輩の魔法剣技を見た壬生が手合わせを頼み込んだ時の話ですが、「劣等生」では渡辺先輩に倒された剣道部の部員らしき連中を描いているのに対し「優等生」では渡辺先輩と壬生だけが描かれています。ここで注目して欲しいのは壬生の格好が制服と剣道着と別になっている点です。この辺に作者の考え方の違いが感じ取れますね。森夕先生は剣道部で起きた騒動であれば壬生も部活をする為の格好をしているだろうと多分考えたのでしょう。あと森夕先生の特徴なんですが回想シーンでは画面に横線を入れることで、現在と過去との時間軸の違いを演出するみたいです。

渡辺先輩が壬生の頼みを断った理由が語られている場面では「優等生」が淡々と記憶を掘り返しながら語っていますが、「劣等生」では渡辺先輩の真意を聞いた壬生とそれを語る渡辺先輩の姿が正面から隣り合って描かれます。ここでは普段とトーンの使い方を変える事により、この場面が特別な魅せ場であるという雰囲気を強めドラマチックに見えるよう工夫されています。これを見れば似たような脚本を元にしていても、作者が何処に注目してどう描きたいかによってコマ割等の演出が変わるということを理解して頂けるのではないかと。

こうした演出の違いに興味があるのであれば「はじマン」を読むと見識が広がるのでより漫画を楽しめると思います。この作品は予め用意されているある脚本を元に複数の人達にコマ割をさせて漫画を作らせ、それを見て「ヒカルの碁」のほったゆみ先生が色々語るという内容。漫画を一度も描いたことの無い素人や漫画作りを手伝ってきた編集者やプロの漫画家等様々な人達が参加していて、それらを比較して見る事でその技術の違いや発想の違いなどが多少なりとも感じられる。普段何気なく読んでいる漫画に込められたプロの技術の高さというものを知る為にも読むことをお勧めします。