アニメごろごろ

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「アイカツスターズ」世界を敵に回した騎咲レイの覚悟


審判を受けるイノセントプリンス
勉強にスポーツにモデルと沢山の才能に恵まれながら、情熱も志も持たない所為で燦然と輝けなかった騎咲レイ。

作中でも屈指の天才である彼女の欠点は、精神面に由来するものでした。レイには自分の本性を曝け出さない臆病な側面があり、その様子は60話「密着!エルザフォルテの世界」で描かれていました。

番組の取材の一環として、ゆめからエルザに関するインタビューを受けたレイ。この時、何故かレイはエルザに初めて会った頃の話をあるモデルの話に置き換えて答えていました。ゆめはレイに尋ねているのですから、本来は架空の人物の意見としてではなく、自分自身の意見として返すべき場面。


ゆめ「レイさんにとってエルザさんはどんな人ですか」

レイ「一番星…これはあるモデルの話なんだけど」


仮にレイがシューティングスターであることを隠したければ、その名前を会話で出さなければ済む話でしょう。わざわざあるモデルの話なんて言い回しを選択する意味は大して感じられません。

何処の誰かも分からない人物の言葉にせず、自分の言葉としてエルザに惹かれた理由を熱弁した方が、その魅力は説得力を持って周囲に伝わるはずです。ところがレイはエルザへの愛を悟られたくないのか、それとも自身の過去を自慢話に思われたくないのか、どちらにせよ人の目を気にして嘘を吐いていました。

エルザの魅力を第一に伝えるより、自身の体面を保つ方を選んだレイ。この様に本心を隠してしまう性格なので、ゆめからエルザが大好きであることを見事に言い当てられると、動揺して何とも言えない表情になるのでしょう。

素直に感情を表現する。花園きららにあって、騎咲レイにはないもの。己を偽るレイの話は暫く間が空きますが、このテーマは別の形で連続しており、翌週の61話「好きっ!て気持ち」では、あことかなたの話を通して誰かを好きになる心は恥ずかしいものではないと語られています。



光を導く二つの太陽
臆病者のレイ。その姿は64話「星に願いを」で再び見る事が出来ます。エルザはレイの才能を開花させる為にヴィーナスアークに連れて来たつもりでしたが、自分の思惑と反対に自分のサポート役に依存するばかり。

少し前までのエルザはレイに対して、きららと同じ様に優しい言葉をかけていました。しかし、64話からは輝く事を諦めたレイに発破をかける意味を込めて、次第に厳しい言葉に棘を生やしていきます。


エルザ「あなたも私の側にばかりいないで、やりたいことをやればいいのに」

エルザ「私には大切なことから逃げてるように見えるわ。本当に私の為を思うなら、自分のやるべきことをやりなさい」

エルザ「あなたには圧倒的に足りないものがある。これ以上、私を失望させないで」


エルザがシューティングスターとしての活動を強引に再開させても、レイの冷めた心に火は灯りません。エルザの期待に応えるべき場面で、彼女の目的も理解していながら、以前と変わらずレイの瞳に光は宿りません。

七夕祭で見せた表情が、彼女の情熱に欠けたアイカツを端的に表しています。ここまで消極的な態度を取るようになったのは、星のツバサを手に入れたエルザに魅了されてからでした。


レイ「エルザを輝かせることに喜びを見出だし、遂に自分自身が輝くことを諦めたんだ」

レイ「共に輝くことなど出来ないんだよ。とびきり輝く星の下では、どんな星だってくすんでしまう」


ゆめ、ひめ、エルザという圧倒的な力の前にローラは正面から立ち向かい、ツバサは女優の世界へ羽ばたきましたが、レイは屈して忠誠を誓いました。自分程度の人間がエルザの側で輝いたところで、太陽の如く輝くエルザの前では何の役にも立たない。その様に思い込んでいる節がありました。そうした弱気なレイの心を動かしたのは、夜空に追い付きたくて走り続けた真昼のステージ。

夜空は真昼の一番星、真昼は夜空の一番星。憧憬を力に換えて共に次へと進み続ける香澄姉妹の関係がレイに影響を与え、そして78話「ようこそ、パーフェクトマザー!」でレイにとって最大の転機が訪れます。そこではパーフェクトで他者を求めない様に思えたエルザが、年相応の子供らしく母親の愛情を求めていた事実が明かされます。エルザが一瞬だけ覗かせた太陽の陰り。

長い間、燻り続けるレイの心に火が付いた契機は、パーフェクトなエルザが見せた弱さ。プリンセスの夢を守る為に力を尽くすレイの生き方はまさにプリンス。自分の為には歌えないとしても、愛する人の為には歌える。それが騎咲レイという人間の本質。

守るべきものがあるから強くなれる騎士。彼女は紆余曲折を経て、80話「騎咲レイの誓い!」で遂にロイヤルソードを立ち上げることになります。



シューティングスターの鎧
さて、ここで話を先に進める前に、先程述べたレイの性格を踏まえた上でシューティングスターについて考えていきます。少し話が長くなりますが、お付き合い頂けると幸いです。

顔を隠し、本名を隠し、性別も不明のシューティングスター。彼女はスカート姿の写真を雑誌に載せていながら、不思議にも世間から女性と思われていませんでした。

この件に関して若干の疑問が残りますが、私達の住む国よりも価値観の多様性が認められているのでしょう。恐らくスカートを履いている写真程度では、モデルの性別を特定する根拠に成り得ない。

謎に包まれた伝説のモデル。この設定はシューティングスターを売り出す大人達が話題性を意識して立てた戦略の可能性も考えられますが、レイが希望して正体を隠していた場合の意図は一体何でしょうか。レイの本心を語らない性格から推察するにシューティングスターの名は、保身の効果があるのではないかと思います。

本名を公開すればファンやマスコミが、時間も場所もお構い無しにトップモデルのレイを追い掛け回す。そうした事態は十分に考えられるでしょう。引退しても接触を試みる人が後を絶たないことは、前作「アイカツ」でも描かれていたので有り得る話です。

正体が知られてしまえば、街を歩く時も周囲の視線を意識するプレッシャーに晒されてしまう。元々周囲に勧められてモデルを始めたレイの立場からすれば、そこまでのリスクを負ってまで取り組む仕事ではない。

モデルとは時に人々の生き方のモデル。真昼とファンの関係を見ていれば分かる通り、仕事は撮影現場やファッションショーで衣装を着てポーズを取る他にもあります。例えばモデルのマナーが良ければ、感化されたファンのマナーも良くなりますし、トップモデルにもなれば社会的な影響力は決して小さくありません。モデルの私生活が度を超えてだらしなければ、CMのイメージダウンにも繋がります。

モデルの仕事に愛着を持たないのであれば、素顔を晒して広範に活動することは、将来に渡り自身の生活を束縛するばかり。リスクとリターンがまるで釣り合わない。その問題を解消してくれる正体不明のシューティングスターは、言うなればレイを守る鎧。

たとえ仕事が楽しいと思えなくても、素性を伏せて作り物の笑みを浮かべていれば、周囲に褒め称えられるだけで失うものは何も無い。鎧を着て本当の名前も感情を欠片も見せていないからこそ、シューティングスターは常に強く傷つかない。その辺は「裸足のルネサンス」でも語られています。


「強くあるため守ったのは感情の動きを消すことだった」

「燃え上がる情熱ためらわないでいい。この世界を素手で触りたい」


上で述べた様にレイは面倒な嵐を避ける人物。その点を十分に理解した上で、例のブランド発表会の恐ろしく長い台詞を聞き直せば、そこに込められた覚悟と情熱に魂が揺さぶられないはずがない。

世界を素手で触る為に、大勢の記者も参加する場所で、ファンの期待を裏切り、エルザへの愛の告白を始める。あの台詞は昔のレイなら絶対に言わない台詞ナンバーワンであったかもしれません。鎧で身を守り続けたレイにとって、人前でロミオの様に高らかに愛を歌い上げることは、相当な覚悟が必要だったことでしょう。

ファンの為にステージに立つ事を考えず、愛する人の為にステージに立つ。ファンを蔑ろにする愚行も厭わないアイドルらしからぬレイのアイカツ。初対面の相手に失礼な発言を繰り返してきたエルザも、流石に空気を読んで公言してこなかった問題発言を連発します。エルザが自分の母親に伝えたかったであろう親愛の言葉、それと同じ事をレイは周囲の批判も恐れず堂々と言ってのけました。

これにはエルザも前代未聞のブランド発表会と言わざるを得ません。エルザはドン・キホーテを思わせるレイの無謀な行動に呆れこそしていましたが、同時に嬉しくもあったのでしょう。レイに対して冷たく接していたエルザの表情にも笑みが戻ります。


「鎧を脱いで闘っても傷つけられることなどない」

「誓おう努力惜しまない。素顔の時も油断しない」


身を守るシューティングスターの鎧を脱いでも、エルザの為に命を懸ける覚悟を決めたレイは傷付かない。騎咲レイとして素顔で人前に立つ以上、街を歩く時も常在戦場の精神が不可欠。今後はアイドルを引退しても逃げ場が残されていません。

鎧を脱ぎ捨て裸足になって、徹底的に自分を追い込む。それはエルザへの依存などという軽々しい批判では、とても言い表せない激しい生き方。そして彼女の覚悟を認める様に星のツバサは姿を現し、その光景に彼女に欺かれてきたファンの人達も心を動かされていきます。

正々堂々と正体を晒して戦い、女王の隣に立つ騎士となったレイの罪を咎める者は恐らく誰もいない。その身にイノセントプリンスコーデ(罪なき王子)を纏い続けている状況が、レイが許されていることを示しています。



過去を乗り越えた先にある未来
エルザとヴィーナスアークに全てを捧げたレイ。最終回で彼女は再び髪を伸ばし始めました。ワールドアイカツカップで見せた姿は、昔のシューティングスターそのもの。「裸足のルネサンス」の歌詞を読み解けば、その姿には過去と向き合う意味が込められているものと思われます。


「今、私に戻った。答え見つけ出した凱旋」

「頬、薔薇の色が染める。前へ進もう一歩踏み出す。あなたと共に」


エルザに導かれて過去を捨てる様に髪を切り落とした騎咲レイ。一時期は輝く事を諦めてエルザの秘書の立場に逃げましたが、真昼達に感化されてエルザの楯たる騎士へと生まれ変わり、エルザが育てた生徒達の道を切り開く光の剣となり、そして船旅で成長した彼女は故郷のニューヨークに凱旋する。今、私に戻った。

その後はアメリカ代表としてワールドアイカツカップに出場を決意。出場の動機は昔も今も変わらず、根本的な部分ではエルザの為になるのではないかと思います。もしもアイカツランキングの時と違う点があるとするなら、それはきっとエルザに仕える騎士として戦うのではなく、エルザをよりパーフェクトにするライバルとして共に戦う事。

ゆめとローラ、真昼と夜空の様に競い合う。レイがエルザに負けない位に伸ばしたアイドルの格を表す長い髪、そこにはレイの再生と成長の意味が込められているのでしょう。

アイカツランキングの後半から本格的に参戦したにも関わらず、決勝トーナメントに3位で進出する実力者のレイ。ヴィーナスの生徒達が練習に参加するのを待たず、自身のアイカツに全力を注いでいれば、準決勝でゆめにも勝てたと思っています。そんな才能に溢れるレイが本気を出してエルザに挑む姿は是非とも見てみたいですね。

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