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「辺獄のシュヴェスタ」残酷な世界で問われる人間らしい生き方

週刊スピリッツ | ビッグコミックBROS.NET(ビッグコミックブロス)|小学館

Kindleとライン漫画で「辺獄のシュヴェスタ」の1巻が期間限定で無料配布中。一話は公式サイトで何時でも読む事が出来ます。この好きな作品を布教する絶好の機会を逃してはならないということで「辺獄のシュヴェスタ」の魅力を少しでも伝える為に記事を書きました。この物語は主人公のエラが魔女狩りによって尊厳を踏み躙られ殺された母親の仇を討つ復讐譚。

魔女の子とされたエラは異端審問官に正しい信仰に立ち返らせる名目でクラウストルム修道院に送られますが、そこは人間を恐怖と薬物で従順な修練女に洗脳する施設、エラはクラウストルム修道会総長のエーデルガルトに復讐する為に修道院から脱走する計画を企てます。作品のどの辺に魅力を感じるかは人によるので勧め方に悩むのですが、個人的に見所を挙げるのであれば大きく分けて以下の3点。

集団を飴と鞭で洗脳する手法

自然界を生き抜く知恵と技術

極限の状況下で試される意志

修道院では逆らう者は鞭で打たれ腕を切り落とされる一方、従う者には将来の裕福な生活が与えられます。この飴と鞭の使い方が見事で修道院に連れて来られた時の少女達は、エラと同じ様に修道院に憎悪を抱いている者も少なくないのですが、苦痛を恐れて波風を立てない様に生きる内に修道院に飼い慣らされてしまうんですよね。組織に洗脳された人々が描かれる作品は度々ありますが、そこに至る迄の様子を手法まで含めて描写した作品は中々に珍しい。

与えられた仕事が出来ない者は罰を与えられ、それを庇う者も同じ様に罰を与えられ、時には連帯責任で罰を与えられる。それが何度も起きれば上の人間が常に目を光らせなくても、少女達は罰を恐れて相互に監視する様になるんですよね。修道院が正しいと思えなくても、自分が苦痛から逃れる為に大人しく従おうとしてしまう。そこに適度な飴を与えると大抵の人達は修道院に従いさえすれば幸福になれると錯覚して忠実な駒になります。

この人間の心が作り替えられる展開に福本伸行先生の「無頼伝涯」と共通する魅力を感じました。あれも無実の罪で閉じ込められた主人公の脱走劇と支配に抗う人間の意志を描いた作品なので片方が好きな人はもう片方も合うと思います。こんな説明で伝わる人がいるか怪しいですけど「辺獄のシュヴェスタ」は「無頼伝涯」の様々な策を巡らした脱走劇と「テイルズオブベルセリア」の復讐に燃える主人公と人々の救済を望むラスボスと「ゴールデンカムイ」の自然界を生き延びる術と「乙女戦争」の宗教が人々に与える影響を足した作品でした。上記の作品に惹かれた方なら読めばどこかしら琴線に触れるはず。

無頼伝涯 (1) (少年マガジンコミックス)

無頼伝涯 (1) (少年マガジンコミックス)

話を戻しますが、修道院ではその様に上からの命令に従う者が過半数を占めるので、脱走の計画は周囲に悟られた瞬間に密告されます。それを避ける為に慎重に慎重を重ねて行動しなければならず、足を引っ張るような仲間を切り捨てるか邪魔者を始末するかどうか選択を迫られる場面も訪れますが、自分が助かる為に他者を犠牲にする生き方が人間として許されるのか苦悩することになります。人間が人間らしく生きるとは何を意味するのか、この作品はそうした哲学的なテーマも内包しています。

エラは皆が助かる打開策を思考を止めないで最後の最後まで出し続けますが、そんな風に生きられない人達も世の中には大勢います。これが少年漫画なら全員が助かる道を選べない奴は駄目だなんて上から目線で言えてしまうのですが、「辺獄のシュヴェスタ」はそんな甘い夢が通じない厳しい世界なのは読めば嫌でも伝わりますし、生き延びる為に非情な決断を下す人を責めようとはまるで思えませんでした。

辺獄のシュヴェスタ」にご都合主義的な空気が微塵も感じられないからなのか、作中で描かれている出来事に他人事とは思えない現実感が与えられ、その所為で自分が同じ状況に立たされたらどうしたかと考えるのですが、そうすると自分が利己的な人間であると嫌でも気が付いてしまう。なので自分が助かる為に他者を犠牲にする人達を責められない。綺麗事を貫いて計画が失敗すれば、全員が拷問されて楽に死ねないのは目に見えていますし、その前に仲間を切り捨てようと考えてしまうのはとても分かるんですよね。

感情移入する努力をせず普通に読むだけで、そこまで思わせる竹良実先生は漫画が上手いなと思います。あれ程の画力と知識と演出力を持つにも関わらず、新人だというのだからとても信じられません。まだ完結していませんが、傑作になると断言出来る安定感があります。個人的には時代が変わろうと褪せることのない魅力を持つ作品だと思っています。「辺獄のシュヴェスタ」はエラの個人的な復讐に焦点が絞られているので物語の規模は小さいですが、竹良実先生は「ヒストリエ」に匹敵する大きな歴史が動き出す物語も描ける予感はしています。

ネタバレになりますが、その片鱗は既に科学的な知識を用いて奇跡を演出して信仰心を育て、剣を使わず人々を律する計画を進めるエーデルガルトに表れています。6巻で完結してしまうので彼女に関して大して語られませんが、スピンオフとして何冊も出せる程の物語を秘めていると感じました。今回はネタバレを控えて書いたので言いたいことはあまり書けませんでしたが、これで一人でも作品に興味を持ってくれる人がいれば幸いです。

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