- 作者: 松井優征
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/11/02
- メディア: コミック
- 購入: 5人 クリック: 392回
- この商品を含むブログ (126件) を見る
上記の画像では烏間先生に突き飛ばされた渚の進行方向と効果線に合わせて下側のコマ線が斜めに描かれています。こうして読者の視点を渚の飛ばされた左斜め上の方に吸い込む様に誘導すると、長方形のコマで描かれるよりも渚が飛ばされた時の勢いを強めて見せられます。
三角形のコマを用いた所為で隣に作られた台形のコマは汎用性のある長方形のコマよりも扱いが難しいのですが、松井先生は見事にそこに適した上体を起こすポーズを渚にとらせる事により、コマに余白を生まずに綺麗に整えられたページに仕上げています。
物陰に隠れているE組に手振りを混ぜながら「出てこい」と呼び掛ける暗殺者のグリップが描かれた三角形のコマ。この様な小さなコマが「暗殺教室」には数え切れない位あります。
上記と同じ内容を長方形のコマで表現しようとすると意外と場所をとる所為で物語の進行が遅れるか、そのコマを入れる為に他の重要度の高いコマを小さめにする破目になります。三角形のコマを自由自在に扱えるようになれば僅かな隙間にもコマを挿入する事が可能、ページあたりの情報量を増やせて物語の進行上に必要の無い小ネタを挟む余裕も生まれてきます。
イトナがいる右のコマの左上を尖らせ、逆に殺せんせーのいる左のコマは右下を尖らせ、イトナが上から殺せんせーを圧迫している雰囲気を出して、イトナが殺せんせーよりも優位にある事を示したコマ割り。基本的に強気や前向きな感情を抱いている者は上を見て、弱気や後ろ向きな感情を抱いている者は下を見るのですが、そうしたお約束をコマ割りに応用した場面と言えると思います。
これは野球部にE組が気圧されていた場面でも用いられていますね。ここまで書いてきたものは松井先生以外の漫画家もそれなりに用いる表現で、これだけでは松井先生の凄さが伝わらないと思うので、最後は松井先生だからこそ生み出せた独創的な表現を紹介します。
追い詰められ恐怖する鷹岡と追い詰める渚の姿、彼らが描かれているコマが下に向かうにつれて大きいものになるだけであれば普通の漫画家でも出来ますが、松井先生が違うのは渚のいるコマを台形にしたところにあります。台形のコマは下に向かうと自然と縦のみならず横にも広がり、鷹岡のいるコマの方にまで入り込みます。
この隣のコマに対する侵食が何を意味するのかというと鷹岡のトラウマであるかつて自分を倒した時に渚が見せた笑顔が、またしても鷹岡の記憶に焼き付けられ一生忘れられない深い心の傷になる事を意味しています。
こんな発想は教科書的な漫画の描き方の勉強をしていただけでは生まれなさそうですね。松井先生の才能によるところが大きいのだろうと思います。先述した渚と鷹岡の戦闘と同程度の奇抜なコマ割りは記事に書いていないだけで、まだまだあるのだから松井先生の引き出しの多さには脱帽するしかありません。