アニメごろごろ

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「Re:ゼロから始める異世界生活」四章完結記念の感想

助けられるより助けたい
スバルがベアトリスを説得して外に連れ出せた訳とは何なのか。説得に失敗した第四章61と成功した第四章129ではスバルの持つベアトリスに関する情報量に大した差はありません。スバルはベアトリスの過去についてリューズの複製体から話を聞いたものの、そこからベアトリスの心を動かせる切り札なんて手に入れていないんですよね。

一応それっぽい情報をスバルは入手していますが、説得には一切使われていませんでした。それではベアトリスの説得に成功した時と失敗した時に何が違うのかと言えば、それはスバルがベアトリスを助けようとしたか、それともベアトリスに助けてもらおうとしたかどうか。

スバルがベアトリスを禁書庫から連れ出す事に失敗した世界では、ベアトリスを助けたいと口にしたのが過ちでした。ベアトリスが生きてきた400年の間に彼女を助けようとした人間は何人もいましたが、彼女の問題を解決出来たのは誰一人としていなかったので、その経験から自分が助けてもらえないと諦めている部分があるんですよね。散々期待を裏切られてきたベアトリスにとって助けてやるという言葉だけでは信じられず、そこには覚悟と行動が伴わなければなりません。

「ベティーを、一番にして。一番に考えて。一番に選んで。契約を上書きして」

自分を助けたいのであれば自分を最優先して欲しいとベアトリスは告げますが、既にエミリアという大切な者がいるスバルにとってそれは不可能であるとベアトリスを知ってます。スバルも自分にとって誰が最優先される人物なのか分かっているからこそ、安易にベアトリスを一番にしてやるなんて適当なことを言えません。口先だけでは相手に届かないのは分かりきっていますしね。助けたいと言って会話を始めるとここに行き着いてしまうので、この方法では説得することは困難です。

これがベアトリスを助けたいではなく、自分を助けて欲しいとなるとその反応が全然違ってきます。自分にとってベアトリスが必要だから生きて欲しいと頼みこむ。まるでヒモ男の様な情けない発言ですが、優しいベアトリスには効果がありました。

自分が助かる道を諦めて殺して欲しいとまで言う程に思い詰めているベアトリスは、既に自分が生きている事の意味を失っています。そんなベアトリスを助けるにはスバルはまず生きる意味と喜びから教えなければなりません。人生の全てでもある契約を果たせないとしてもベアトリスが自己肯定感を得られるようにしてあげる。

ここでスバルを助けるという新たな役割を与える事は、ベアトリスに生きる理由を与える事にもなります。レムの期待に応えようと立ち上がるスバルと同様に、生きる意味を見失っていても自分を必要としている誰かがいれば、ベアトリスはその誰かを見捨てない為にもとりあえず生きようとします。普段は他者との関わりを避けるベアトリスですが、弱っている相手から頼られると予想外の行動力を発揮するのは、第二章23から第二章28のスバルをラムやロズワールから守る場面でも見られます。

私利私欲を満たそうとベアトリスの力だけを求めて来た連中に頼られてもどうでもいいでしょうけど、死ねば悲しむ程度には好意を抱いているスバルに頼られると自分に存在価値があると少しだけでも思えるでしょうね。作中では特に触れられてはいませんでしたが、かつて何も出来ずに大切な者を失ったベアトリスにとって、救いを求めるスバルを守れる機会を得る事は特別な意味を持つと思います。

スバルが助けて欲しいと話しただけでベアトリスを説得出来た訳では有りませんが、ここで心を揺さぶったことがその後のスバルの言葉を聞き入れさせる下地として機能したのは大きいのではないでしょうか。きっとこの過程を飛ばしていきなりベアトリスに一緒に今を生きて思い出を積み重ねようなんて言っても拒否された可能性が高い気がします。それをしたらベアトリスに契約の方が大事だからと返されて終わるだけだと思います。

エミリアが自立する時もスバルがレムの英雄になる時も同じなんですけど、この作品では助けられる側が一方的に誰かの力で助けられるだけでは駄目で、助けられる側が誰かの期待に応える為に立ち上がらないと駄目な場合が多いですね。互い助け合える対等な関係を相手と結ばなければ、本当の意味で前には進めないという価値観が鼠色猫さんの中にはあるのかもしれません。


推理ものとしての4章
4章ではロズワールにガーフィールにリューズの複製体と様々な者達の思惑が錯綜しているので、スバルはループする中で少しずつ新たな情報を手に入れて、誰が何を企んでいるのかを掴もうとします。以前経験した世界と主張が異なっている者がいれば、何故そうなったのか原因となる事柄を推測する。これは普通の推理ものには使えない展開ですね。

そうした推理ものとしての面白さが4章にはあるのですが、これについては正直作者の労力に見合わない結果だったのではないかなと個人的には思います。というのも4章は魔女の話をやったかと思えば、腸狩りとベアトリスの話をやったり、ガーフィールと聖域の話をやったりところころ変わる上に長過ぎるので、推理する為のヒントも読んでいるうちに忘れてしまうんですよね。

ぶっちゃけまとめ読みしたり何度も読み返さないと状況を理解するのが難しい。情報の提示と推理を一度にまとめて行えば、それまで見てきた情報が繋がり真相が明らかにされることの面白さが読者にも伝わり易いのですが、それらを小出しでやられると読んでいても覚え切れず何が何だか分からないので、描かれていることの凄さも感じ難いのが非常に惜しい。熱心な読者以外には面白さがいまいち伝わらない展開が多めな気がします。これは4章が100万字超えと長過ぎることの弊害ですね。まあ長過ぎるのはこれに限らず「リゼロ」そのものの欠点という気がしますが。


自立して前に進む仲間達
「リゼロ」の3章ではスバルが己の無力さと醜さを精神が壊れる寸前まで嫌というほど思い知らされ絶望しても、それでも前に進もうとレムに支えられながら決意する話です。では4章はどの様な話だったかというと、自分の殻に閉じ篭っていた仲間達がそれを破り自立する話という風に受け取りました。

エミリアもガーフィールもベアトリスもラムも現状維持するばかりで前に進むことを避けていましたが、スバルの説得により一人また一人と心を動かされ変わっていきます。何をする事が正しい結果を齎すのか分からない世界では、自分の頭で考えて行動することを恐れ、何か分かり易い道標に依存してしまいますが、そんな世界の中でも自分で決断して行動して幸せな未来を手に入れようと足掻きます。

その決断が悲劇を生み出してしまうかもしれないと思うとその場に留まってしまいがちですが、そんな時に自分を支える仲間がいれば前に進む為の一歩を踏み出せる。スバルの言葉がエミリアとガーフィールの心を動かし、エミリアとガーフィールの行動がラムと聖域の住民達の心を動かし少しずつ世界を変える。

3章が0から始まったのだとすれば、4章は1が動き出したといったところでしょうか。エミリアもガーフィールもベアトリスもまだ世界に立ち向かうスタートラインに立ったばかり、過去の清算はしたもののまだ何も始まっていません。その存在が既に消えてしまった魔女やレムとは違い、彼らの人生はここからが本番。5章から彼らがどの様な道を進むのか今から楽しみです。

それにしてもエミリア陣営は何かに依存する傾向が強いキャラが目立ちますよね。エミリアもレムもラムもロズワールもガーフィールもベアトリスもそうしたところがあります。スバルが何もしないままでも大丈夫そうなのはオットーしかいないような。「ギフト」に登場するリディアも依存しがちでしたし、鼠色猫さんはそうしたものが好きなんでしょうか。