アニメごろごろ

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非日常を通じて日常を充実させる物語

アクセル・ワールド〈8〉運命の連星 (電撃文庫)

アクセル・ワールド〈8〉運命の連星 (電撃文庫)

中高生向けの漫画やラノベでは主人公がヒロインとの出会いによって、平穏な日常から戦いのある非日常の世界に巻き込まれていくというストーリーが数多く存在します。この手の作品ではストーリーが先に進んで行くたびに主人公の戦いは激しくなり、学校生活など普通の世界からは遠ざかっていくという事が多いです。

非日常を終わらせるまでは日常の世界に帰れないなんて事もよくあり、作中では基本的に戦いのある非日常の世界が舞台になっているのですが、「アクセルワールド」はそれらの作品とは少し違います。この作品は主人公ハルユキがヒロイン黒雪姫と出会い、現実世界とは別の加速世界という場所に導かれ戦いを繰り広げるという上に挙げたパターンと似た構造をしているのですが、日常と非日常が完全に切り離されているのではなく同時に存在しています。

その事がよく分かるのは8巻にあるバスケの試合です。加速世界ではそれなりに強いハルユキも現実世界ではただのデブなオタクなので、バスケの試合では他の男子と同じようなプレーは出来ません。昔のハルユキであったなら試合に勝つ努力もせず周りから相手にもされなかったところですが、加速世界で様々な出会いや経験をしてきたハルユキは違います。

加速世界で培ってきたノウハウや戦う時の心構えを活かしてバスケ部員相手に一矢報い、それによりハルユキはバスケ部員から認められるようになります。今まで誰にも相手にされていなかったハルユキが少しずつですが、周囲から認められるようになり学校で居場所を獲得していきます。非日常が日常と切り離されているのではなく互いに影響を及ぼし合い、非日常の世界で得てきたものが日常の世界を充実させていくというのが「アクセルワールド」の特徴。

話は変わりますが、個人的にバスケと飼育委員の話は素晴らしい出来だと思っています。というのもライトノベルの主な購買層にあたるオタクな読者達に対して「自分の殻に籠ってないで現実も大切にしよう」「前向きなイメージを持って行動すれば少しでも現実を変えられる」というメッセージを込めて書かれているからです。割と大雑把な解釈になりますが、こういう感じのものを伝えようとしているのは、ハルユキのオタク的なキャラ造形やその他諸々から考えて多分間違っていないと思います。

これは「ソードアートオンライン」にはなかったものです。
強くてカッコ良くてモテモテというキリトの姿は読者が憧れるかも知れませんが、キリトと読者とではあまりにスペックが違い過ぎるので読者を勇気付けるのには向いていません。完璧超人の英雄譚に影響を受けて、自分もそうなりたいと思い努力する事はまずないので。

まあ娯楽として楽しむ分にはそれで良いのですが、個人的にはラノベの様な子供向けの作品には読者の人生に何か良い影響を与えてくれる要素があって欲しいと思っているので、オタクの成長物語である「アクセルワールド」の方が好きですね。