近年のアニメには美少女と呼ばれるキャラが沢山いますが、その中に本物の美少女と呼べるキャラは何割いるでしょうか。美少女設定が与えられていながら、実際の画面に描かれる姿はモブキャラと変わらない。その様な量産型の容貌の美少女キャラが登場する作品は少なくないですよね。それでは設定上では美少女の枠に入れられていても、説得力が欠けていると言わざるを得ません。
キャラの好き嫌いは個人の感性で自由に決めるものではありますが、キャラの美醜に関しては少なくとも設定面で美少女にするのであれば、個人の感性に左右されずに満場一致で美少女と思われるようにして欲しいところ。天才キャラなら誰よりも優れた頭の良さ、最強キャラなら誰にも負けない強さ、美少女キャラなら誰もが認める美しさ。設定の形骸化を阻止する為に、説得力を与える描写の積み重ねは必要になるでしょう。
美少女設定をハリボテで終わらせない。万人を納得させる美少女キャラを作り出す為にはどうすればいいのか。それを考える上で押さえておくべき美少女描写の重要なポイントが、容姿の差別化、立ち振る舞い、声音と口調、周囲の反応にあると思っています。美少女キャラを表現したければ、普通の少女と比較して睫毛を長めにして、動き方や話し方を美しく見せて、それらを周囲のキャラの反応から窺えるようにするとかですね。この点を意識して作られた美少女キャラは、仮に作中で美少女であると明言されていないとしても、見た人が自然と美少女であることを察するようになります。
美少女は他者に観測されて美少女になる
美少女キャラが本当に美少女であるかを証明する意味で周囲のキャラの反応は大切。街を歩けばモデルにスカウトされ、他所のクラスから姿を見に来る男子が現れ、通行人が目を奪われて足を止める。そうした地道な描写が美少女キャラの美少女性を確かなものにしていきます。これらの描写が微塵も無いキャラを見た時は、主人公視点や消費者視点で美少女に見えたとしても美少女と思わない方が良いかもしれません。

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アイドルアニメもトップアイドルの風格を表現する時には、作中で描写されるファンの年齢を拡大して魅力を表現しようとしますね。話は少し逸れますが、アイドルアニメは作品の内容や対象に合わせてファン層が大きく異なるものであり、例えば「ラブライブ」に登場するスクールアイドルのファンは、彼女達を身近に感じる中高生の少女の割合が高めでした。逆に「アイドルマスターシンデレラガールズ」に登場するアイドルのファンは、男性を中心に構成されてライブでも女性の声援は殆んど聞こえてきません。
一方「アイカツ」に登場するアイドルのファンは上記と比べて、女児に中学生男子に成人女性と幅が広い点が特徴。「アイカツ」は女児を対象にした作品であるにも関わらず、どういう訳かアイドルとファンの交流を描いた回では、女児よりも男子中学生を好んで出したがるんですよね。その真意は謎に包まれていますが、アイドルが大勢を虜にする力を宿す事は伝わってきます。
高度に発達した少女は美少女と区別がつかない
美少女描写で絶対に外せないキャラの描き分け。普通の少女と比較して綺麗に整った顔は、美少女設定に説得力を与える一番重要な部分。手っ取り早いのは美少女以外を引き立て役として不細工に描き、美少女キャラの美貌を強調する方法。
「アタックNo.1」では主人公の魅力を強調する比較対象として、出っ歯な少女や目が小さい少女が何人も登場しました。引き立て役に選ばれるのは、大抵の場合は主人公達に悪意をぶつける嫌な奴。「デビルマン」でもミーコに危害を加える悪友は歯の並び方が悪かったり、超が付く程の肥満体型に描写されていました。その姿は人間を襲うデーモン以上に化け物。
性格が悪い奴は見た目も悪い。昔は読者のキャラに向ける感情を思い通りに誘導する意図で、その類の演出を多用する作者が少なくないのですが、今は他者の容姿を貶める描写に不快感を覚える人が増えたのか、意地悪な女性キャラであろうとも容姿まで醜悪にする真似は避けるようになってきています。昔と違って80点の美少女の隣に20点の少女を立たせるのではなく、100点の美少女の隣に80点の少女を立たせる。
時代は女性キャラを全員それなりに綺麗に描いた上で、美少女キャラを描く時は彼女達を越える方向に緩やかに進んでいます。ただし現状は容姿の差別化が不十分な作品が沢山あり、それは主に男性を対象にしたハーレムラブコメにおいて見られます。男性の欲望を充足させる目的で作られたハーレムラブコメは、目的を達成する為に美少女設定が付かないモブキャラまで美しい楽園を志向しがち。右を見ても左を見ても、目に映るのは華ばかり。
男性の満足度を高める方針は正しいと思うのですが、この系統の作品では全員を魅力的に描こうとするあたり、顔の描き方がワンパターンになってしまい、美少女キャラが相対的に美少女に見えなくなる現象が起きてしまうんですよね。美を追い求めた末に生まれた秀逸なデザインではあるとはいえ、それしかないのはどうなんだろうという気はしてしまいます。まあ容姿に明確な格差が存在していると、好きなキャラが異なるファンとファンの間で醜い罵り合いが起きるから仕方が無いかなとも思います。私も好きなキャラが不細工とか言われたら殴りに行きたくなりますからね。

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本物の美少女キャラは女性に飢えていない人の所に姿を現す。ギャグ漫画の「斉木楠雄のΨ難」が美少女と少女を輪郭や睫毛で描き分けられているのは、読者が女性キャラに萌えなんて求めていないから。読者の大部分が女性キャラに興味を持たないおかげで、作者が読者の反応を無視して自由に美少女らしいデザインを考えられるなんて妙な話ですね。
ストレートロングはストロング
美少女に見えるデザインは時代毎に移り変わる部分があるものの、何十年が過ぎても揺らがない型は存在しています。その型を完全に理解して描かれている美少女キャラが「恋は雨上がりのように」の橘あきら。美少女らしいデザインについて講釈を垂れるより、彼女の長髪と睫毛を見せる方が話は早い。細部まで描き込まれた長髪と睫毛が、髪の艶を表現するハイライトとグラデーションが、美少女であることを雄弁に語ります。
髪の長い女性が美しいとされる所以。一般的に髪の長い女性に美しいという印象を抱く方は多いと思いますが、どうしてそういう空気が生まれているのか。長髪が美少女を象徴する記号として機能するのかは諸説ありまして、例えばスポーツ時や入浴時に邪魔な長髪を好んで選択する女性は、髪型に対して機能性と無縁の美を求めているオシャレな人間の割合が高く、彼女達の存在が髪の長い女性は美しいというイメージを与えた説があります。
別角度から捉えると生活に不便な長髪は、汗水を流して働いている身分の人間より、身体を動かす機会に乏しい令嬢に適した髪型と言える訳で、長髪の令嬢の優雅で気品ある振る舞いが、世間に髪の長い女性は美しいというイメージを与えた説もあるでしょう。
平安時代の貴族社会において、髪の長さは美しさの象徴でした。こちらの感性は教科書の1ページに埋もれず「竹取物語」を通じて、現代を生きる子供にまで語り継がれています。「竹取物語」に登場する日本で最も有名な長髪の美女が、私達に黒髪ロングストレートは美少女という認識を与えたとか与えていないとか。
髪の長さが格を決める。それはラブコメにおけるメインヒロインがサブヒロインと比べて、長髪の割合が高い話とも無関係ではないのでしょう。髪が長い方が格上の図式は「アイカツスターズ」にも濃く表れており、ヴィーナスアークでも幹部ーズでも一番の実力者は、髪の量が他のアイドルとは違っているんですよね。ちなみに上で述べた型に全く嵌らずに、自分の理想の美少女を追い求めるタイプのクリエーターもいます。
その代表格の宮崎駿監督は橘あきらやかぐや姫みたいな黒髪ロングストレートを出しません。サブキャラを含めても背中まで達する長い髪は本当に少ない。ヒロインの髪型が似た様なものになるあたり、宮崎駿監督は美少女のデザインに対する拘りが強い気はします。
動きで見せる美しさ
美少女度は容姿のみで決まるものではありません。美しさとは立ち振る舞いにも表れるもの。容姿が完璧でも仕草がだらしないオッサンであれば千年の恋も冷めますし、逆に容姿が平均的でも仕草に品性が感じられると好かれます。適当に流してしまう作品も多数ありますが、これもとても大切な美少女描写ですね。その辺を意識した美少女描写が行われている作品が「宇宙よりも遠い場所」。
タレントをしている美少女の白石結月、目を惹く美人でスカウトされたこともある小淵沢報瀬。両名は公式から美少女設定を持たない玉木マリ、三宅日向と比べてデザイン面で綺麗なだけではなく、食べる時や笑う時に口を開き過ぎないかなど、日常の仕草も綺麗に見えるように描かれています。公式サイトにあるキャラ紹介の立ち絵を見ても分かる通り、何気ない仕草からキャラの雰囲気が読み取れる。「宇宙よりも遠い場所」は境遇も性格もばらばらの4人が南極に向かう話であり、ばらばら感を強調する意味も込めてちょっとした仕草にも個性を出そうとしていると思われます。
美少女キャラを演じる声優
最後に美少女らしい声質に関して、最低限の条件に活舌の良さがありますが、それ以外に透き通る声が挙げられます。透き通る声と言われても想像が付き難いでしょうから、声優で例えるなら早見沙織さんですね。彼女の声質と演技に美少女感を抱かない方もいるかもしれませんが、その様な印象を与えるのは演じたキャラが証明しています。
「バクマン」ではルックスを幾度も褒められた亜豆美保、「俺妹」ではモデルの仕事をしている新垣あやせ、「俺ガイル」では大人びた美少女の雪ノ下雪乃、「魔法科高校の劣等生」では生身の人間とは思えない美貌の司波深雪、「宇宙よりも遠い場所」ではタレントの白石結月。ご覧の通り美少女キャラを何名も担当してきました。上記は美少女らしさを感じさせる声の形の一つと言えるでしょう。
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美少女キャラは設定上は作り出すのが楽ですが、美少女設定に説得力を持たせるのは手間が掛かるもの。付け加えて言えば手間が掛かる割に作品の成否に影響は及ぼさないというのは、ヒット作を見ていれば何となく分かりますよね。率直に意見を言わせてもらうとやってもやらなくてもいい些細な部分。そんな風に思わなくもないのですが、だからこそ美少女描写に情熱を注ぐクリエイターは尊敬しますし、これからも応援していきたいなと思っています。