アニメごろごろ

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「アナと雪の女王」のトロールの罪は重い

アナと雪の女王」は一言で説明すれば姉妹愛を描いた物語と言えますが、姉妹と纏めずに個別に見るとアナの真実の愛を知る物語、そしてエルサの心的外傷の回復の物語の二つによって成り立っています。


真実の愛を知るアナ
アナはエルサの魔法を受けて、心が凍る呪いにかかります。呪いを解くには真実の愛が必要と作中で説明があるのですが、その真実の愛とは何を示しているのか。その答えははオラフが語る通り他者を思い遣る優しい気持ち。行動の次元でいえばアナがクリストフから呪いを解く為の真実の愛のキスを貰うよりも先に敵に命を狙われるエルサを庇う事を指します。アナにとってはこの様に周囲を優先する行動は始めてのことではないでしょうか。

それ迄のアナは我儘とまでは言わないにしても、自分を中心に物事を考えていました。それは自分が暇だからという理由で寝ているエルサを起こして遊びに誘う姿やエルサの言葉に耳を傾けず恋に恋する浮かれた姿に表れています。アナは姉妹の問題に巻き込まれたクリストフやオラフに気を遣おうともしていません。クリストフが余計な事をするなと忠告したのに雪の怪物に復讐するなど身勝手なんですよね。

そんなアナが最後の最後に真に他者の為に自分の身を投げ出します。自分よりも他者を優先することが真実の愛だとその身で示しました。この相手を真に想う心が相手との絆を取り戻し強めるのは「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」で描かれたテーマと同類型のものですね。

きゃらスリーブコレクション あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 安城鳴子 (No.033)

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エルサが魔法を操れたのは奇跡なのか
アナの呪いが解けると同時にエルサはそれまで制御不可能だった魔法を自由自在に操れるようになります。これをエルサを身を挺して守ったアナの愛が奇跡を起こしたとか、ご都合主義だとかの言葉で片付けえしまえますが、それでは退屈なので制御を可能にした理由を探していきます。そもエルサが魔法を操れない理由ですが、これはエルサがアナを傷付けて自分の魔法を恐れたことが原因。恐れの感情が魔法の暴走に繋がることは作中ではパビーが説明していますよね。

両親の愛がエルサを閉じ込め抑圧するもので真実の愛では無いから、エルサは魔法を操れなかったのだと両親の所為にする方もいますが、愛情の向け方はエルサの問題とは無関係なんですよね。間接的に愛情がエルサの精神と魔法に好ましい影響を及ぼす事はあるかもしれませんが、根本的にこの恐怖を克服しなければどうにもなりません。というかまず両親はエルサの為にわざわざ使用人を減らし生活の水準を下げ、魔法を抑える為の手袋も用意し、エルサの魔法を恐れずに歩み寄っているわけで、これが真実の愛でないなら何だというのかと個人的には思います。エルサの代わりにアナに女王に必要な教育を施していない事からも、両親がエルサを見捨てる気が無いのは疑いの余地はありません。

話を戻しますが、パビーがご丁寧に恐怖の感情がどの様な結果をもたらすのか脅かす様なイメージ映像込みでエルサに解説したせいで、エルサは余計に魔法に危険性を感じてしまい恐れるようになりました。これはエルサの反応から見ても間違い無いですね。ここは魔法なんて簡単に制御出来るよともっとポジティブに語れば問題無かったんですよね。どうやら彼にはカウンセリングの才能は無かったみたいです。元々エルサはアナを誤射する直前までは魔法を完全に制御していたのですから、恐れを抱かなければ本来魔法は簡単に制御可能なものなんですよね。ちょっとした気の持ち様で解決する程度の問題。


魔法なんて恐れる程のものではない
ではエルサの魔法に抱いていた気持ちが何を切欠に変わったかというと、エルサが愛の力の大きさに気付いた事も挙げられますが、一番はアナが真実の愛の力によって呪いを解いた事でしょう。皆を傷付けてしまうと思っていた魔法、それがアナの心を凍りつかせ取り返しのつかない事をしまったとエルサは早合点しますが、その直後にアナは呪いを解いて何時もと変わらぬ元気な姿を見せます。

恐れていた魔法がアナを殺す程の危険なものでは無かった事実がエルサを安心させ、魔法に対する恐怖を薄れさせ制御を可能にしたのだと考えると奇跡なんて大層なものでは無いと言えます。トロールに助けて貰った子供の頃とは違い、今回のアナは自分の力だけ回復しました。氷の城で対話した時にはエルサが守らなければと感じていたアナ、そのアナが自力で回復したという事実は子供の頃にアナを傷付けたエルサのトラウマを払拭するのに十分な効果があったのではないでしょうか。トラウマになった出来事と似た状況の中でそれを乗り越えると、トラウマが解消されるというのは治療法としては効果が高いものでしょう。

これより前のレリゴーレリゴーしていた時はトラウマと向き合わずに現実逃避していただけですから、あれでは何時まで経っても直らなかったでしょうね。「ありのままの自分になるの何も怖くない」と歌ってはいましたが、魔法を制御出来ていないところから怖がっているのは明らか。その心の檻から抜け出せたのはやはりアナの真実の愛故の行動が大きかったと見るべきでしょう。アナもエルサも抱える問題を最終的に解決したのは自分自身の心の有り様ではありますが、そこにまで行き着いたのは大切な姉妹の存在あってのものだと思います。


トロールが事態を悪化させた
先述したエルサに余計な恐怖を与えた事以外にもトロールはやらかしているんですよね。パビーがアナを治療の際に念の為といってアナの記憶も消したせいで、アナは自分の罪を知らずに生きてきました。優しかったエルサがどうして自分と距離を取るようになったのかも分からないし、事件を忘れているからエルサが何に悩んでいるのか理解しようとする事さえ出来ない。

記憶を改竄せずに罪を自覚させていたら、もうちょっと歳相応の振舞いが出来たのではないでしょうか。悪い事をしたと教えて叱る事は教育には必要不可欠だというのに。記憶を消してしまうならエルサのトラウマを消してあげた方がまだ良かったんじゃないですかね。それによりエルサが魔法を制御出来るようにしていれば、両親と共に出掛けられたから船が嵐に巻き込まれても転覆する前に海を凍らせられたと思うんですよね。あの頃のエルサならそれだけの力は持っていたでしょう。

パビーが話した真実の愛の件にしても周りのトロールが心臓に刺さった氷を溶かすには大好きな人のキスが必要だと曲解するから、それを真に受けたアナやオラフはハンスとキスをしようなんてずれた行動を取る。パビーはそんな事を一言も言っていないんですけどね。この作品はこうしたディスコミュニケーションが多い気がします。

悪い魔女の系譜にいるエルサ
海を凍らせ吹雪を起こし雪の怪物を作り出す。エルサの強さは魔女のそれと同等だと感じた方も多かったのではないでしょうか。それもそのはず初期設定ではエルサは悪い魔女のポジションのキャラだったそうです。この悪役が悪役から脱却するのは近年目立っていますね。「シュガーラッシュ」に「マレフィセント」とディズニーはそういった方針になったのかもしれません。

それにしてもエルサの魔法は凄まじい。敵が海から攻めれば船ごと凍らせ、山から攻めれば豪雪で動きを止め雪崩で飲み込む。巨大な雪の怪物も作れるし、記憶操作能力を持つトロールとも繋がっているし、絶対に敵に回してはならない相手。「アリスインワンダーランド」のノリで続編をやったら戦争でエルサが無双する姿が見られそうです。まあそんな続編は無いでしょうけどね。