新たな道を探した如月ツバサ
努力しても勝てない、好きな人に振り向いて貰えない。願った夢が叶わないとしても、それでも前に進もうとする人の物語が魅力的な「アイカツスターズ」。
その作品性が色濃く出ていたアイドルが、ローラとあこの師と呼べる如月ツバサであったと思います。
夏フェスでは4位、秋フェスでは3位、冬フェスでは2位、S4戦の合計得点はひめ先輩と夜空先輩より下という風に他のS4に負けてきたツバサ先輩。
生徒から尊敬されるS4兼生徒会長でありながら、完全無欠とは言い難い弱い面を多く見せてきた人なのですが、そこが彼女の美点でもありました。
歌組オーディションでひめ先輩に負けたことを明かし、ベテラン俳優に舐められている現場も見学させるなど、後輩の成長に必要と思えば美しくない姿も晒せる強い心を持っています。
S4に選ばれた日が遅く、弱くて回り道も沢山してきたからこそ、人に語れる言葉もあることをツバサ先輩は教えてくれます。
ツバサ「世界は広く、そして道は一つじゃない。迷い、悩み、足掻いて夢に辿り着くこともある。」
45話と57話で新人にステージのチャンスを作ってあげた動機にも、S4になるまでに苦労してきた経験が関係していたのかもしれません。
優雅に泳ぎ続けた白鳥ひめ
さて、回り道をしてきたツバサ先輩とは異なり、目の前の道を急いで走らされてきたひめ先輩。アイドルとして歌う夢を叶える為に、不思議な力を乗り越える努力を強いられていました。
そのおかげで一年生の頃からS4の名に恥じない実力を身に付けられましたが、恐らくそのせいで感じる孤独も沢山あったことでしょう。
アイドルすぎるアイドル。ひめ先輩は選ばれた側の人間である代わりに、不自由な人生を送ってきたという見方も出来ます。
それは赤ん坊の頃からカメラで撮られてきたことにも通じる話。多分、本人の意思で仕事を続けてきたとは思いますが、スタートラインは本人と関係なく切られている人なんですよね。
生まれた時から芸能人。どこにでもいる女の子として普通の生活が送り難いところは、王女であるエルザ様と似ていると思います。
大人に囲まれて育ち、不思議な力を与えられ、入学から半年も経たない内にS4に選ばれる。美しいアヒルの子であるひめ先輩にとって、自分を対等に扱ってくれるライバルは求めてやまないものであったのかもしれません。
ひめ「S4としてアイカツしていて分かったことがあるの。それはね、一人で輝くよりも皆で輝いた方がずっと素敵だってこと。」
ひめ「ゆめちゃんにローラちゃん、この世界で二人が出会えた奇跡に感謝しなくっちゃ。」
特別な人間ならではの孤独を抱えていたのではないか。ひめ先輩をそういう人として見ると卒業前に仲間と一緒にいられる優雅な一時が永遠になることを望んでいたり、自室に4人分の席を置いていることの印象も変わると思います。
スタッフやカメラの前で休めない性格の彼女にとって、歳の近いS4と共に開く趣味のお茶会は羽を休める大切な場所であったことでしょう。
夢は見るものじゃない
そんなひめ先輩と歌組で共に輝くライバルになりえたであろう唯一の存在がツバサ先輩でしたが、その心は例の力によって折られてしまいました。
その結果、ひめ先輩は歌組で競い合えるライバルを失い、ツバサ先輩は歌組の頂点に立つ夢を諦めることになりました。
時期は明かされていませんが、「フォトカツ」で言及されているようにツバサ先輩が劇組に移った訳を聞いていたひめ先輩は、その件で負い目を感じていたことでしょう。
「スタートライン!」を歌ってきた人からしてみれば、友達の夢を壊してきた事実は人一倍辛かったはず。だからこそツバサ先輩が劇組のS4に選ばれ、自分と同じ服を着てくれた時は、本当に嬉しかったと思います。
その二つに別れた道が交わる様子は、ワールドアイカツカップで再会したゆめとローラの姿と重なります。たとえ夢が叶わなくても、諦めなければ違う形で叶えられる日は来る。ひめ先輩とツバサ先輩の関係には「アイカツスターズ」の物語が凝縮されていました。
白鳥と黒鳥
最後に雑談。「ブラックスワンを探すようなもの」という無駄な努力を表現する英語のことわざに使われてきた黒鳥。
かつて否定的な意味で使われてきた動物は、それまでいないとされてきた黒鳥が実際に発見されたことにより、常識を疑うことや想定外の出来事を象徴するようになったそうです。
その文脈を踏まえた上でツバサ先輩のフォトに「黒鳥の玉座」がある意味を想像すると胸が高まりますね。ありえないなんてことはありえない。自分を信じて羽ばたき、新たな道を見つけて輝いたツバサ先輩にぴったりであったと思います。