アニメごろごろ

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「アイカツスターズ」虹野ゆめの不思議な力が意味するもの

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虹野ゆめを語る時に外せない不思議な力。原理不明のファンタジー要素が強い為、アイドルアニメの文脈で観る際には違和感を持たれた方もいるかもしれません。

最後まで力そのものは謎に包まれていた訳ですが、その力が引き起こす問題は決してファンタジーではなく、視聴者と無縁の話ではありませんでした。

不思議な力で手に入れた理想の自分と未熟な自分。そのギャップに悩まされながらも、ありのままの自分を受け入れられるか。

不思議な力を通して描かれているものは「私らしく」という非常に身近なテーマであり、加えて言えば「アイカツスターズ」全体を貫く柱。その事は完璧に固執していたエルザフォルテの物語、ゆめの楽曲の歌詞にも表れていたように思います。

スタージェット
「きっと私らしくSTARS!」


MUSIC of DREAM!!!
「大好きも大嫌いも全部ほんとの私なんだ」


自分らしく生きられない
身体に負担を掛ける不思議な力を使うべきではない。その事を頭では理解していたとしても、ファンに失望される恐怖から依存してしまう。世の中にはゆめと同様に自分の人気を維持する為に、望ましくない手段を選んでしまう人達は少なくありません。

人気を高める目的で過度の露出やスキンシップをしたり、危険で過激なパフォーマンスを繰り返したりする。ゆめと方向性は異なりますが、アイドルに限らず人気を欲するあまり、本心から望んでいない手段を選ぶ人は少なくないでしょう。

本当になりたい自分から少しずつ離れて、知らない内に引き返せない所まで進み、最後は悲惨な結果を招いてしまう。それ以外に成功する方法が見つからなければ、人はあっさりと誘惑に負けてしまう。それだけ自分が自分らしくあるまま、社会的に成功することは大変なんですよね。

不幸にも本当の自分ではない姿が評価されて、そこから抜け出せなくなる事態は珍しくありません。上記は極端な事例ではありますが、アイドルは程度の差こそあれ自分を偽る者。

ローラもジュエルアイスクリームのオーディションでは、審査員の受けを狙った発言を繰り返していました。シューティングスターもモデルの仕事が楽しくないにも関わらず、人前では作り物の笑顔を見せていました。そうしなければ知らない人から好かれることは難しいけれども、そこまでして仕事を続ける意味があるのか悩み所ではあります。

自分に合わないキャラを無理に演じて、一時的に仕事を得られたとしても、そのキャラを何年も続けていたら精神は磨り減ることでしょう。人間はやりたいことしかやれないものなので無理は禁物。

ファンやマスコミの視線に晒される職業において、先述した手段と結果のバランスを考えることは大切であると思います。自分が何の為にアイドルをしているのか、本当の自分で勝負をするべきか、これはアイドルが永遠に抱える大きなテーマにあるでしょう。

ゆめに与えられた不思議な力はファンタジーではあるものの、そこから生み出される苦悩はリアル。特異な設定に意識を引っ張られがちですが、実はどこにでもあるアイドルを悩ませる種のひとつに過ぎません。

不思議な力は自己肯定感を持てないアイドルが、己を偽り選んでしまう卑怯な手段の数々をアニメ的に表現したもの。その様にも捉えられると思います。


甘い蜜の味を忘れられない
実力不足に落ち込む主人公という点でゆめもあかりも変わりませんが、ゆめは不思議な力で早期から成功する経験をしています。実力以上のパフォーマンスと観客の称賛から得られる高揚感は、忘れようとしても忘れられるものではなく、雪乃ホタルと同様に力を使いステージに立つことが楽しくなってしまいます。

デビュー間も無い頃から強烈な成功体験をしているからこそ、ステージに立ちたい欲求も強まり、また失望される恐怖も人一倍増してしまう。そこには初期のあかりのようなアイドルの仕事の幸福を知らず、周囲に期待されていない人間には圧し掛からないプレッシャーがありました。

事実としてゆめは精一杯の努力をしても同級生からは本気を出していないと囁かれ、指田プロデューサーからは見込み違いなんて言われています。そんな風に自分の認識と周囲の認識がずれてしまい、独力では周囲の期待に応えたくても応えられません。
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不思議な力が危ないと知らされても、ステージで失敗する不安から逃れる為に、無意識に使い続けてしまう。そして不思議な力が作り出す感動的なステージでファンが増えるに連れてしまえば、比例的にプレッシャーは重くなるという悪循環に陥る。

ホタルが不思議な力に頼り始めた切欠も、当時注目を浴び始めたS4を人気にしなければならないというプレッシャーが原因でした。ゆめもS4になる夢を叶えて学園の看板になれば、自分が輝くことだけを考えている訳にはいきません。S4の人気に合わせて仕事の規模が膨れ上がれば、責任感が邪魔して依存は更に止められなくなることでしょう。

もしかしたら諸星学園長はそうなることを予見していたので、ゆめに対して早い内から四ツ星学園のイベントや友人のイベント等、容易に責任が取れる規模の仕事を次々に与えて、不思議な力を克服させようとしたのかもしれません。

この方法ならば、万が一ゆめがステージで大失敗したとしても、諸星学園長が関係者に裏から手を回して守れます。あらゆる責任は諸星学園長が被れば済みますから、ゆめのアイドル生命が絶たれたとしても、その後の人生に傷が付くリスクは極めて低いです。

S4が引き受ける様な完全に外部の仕事ではなく、諸星学園長の友人の仕事を強調する描写を入れているので、そのような事情は裏に隠されている気がします。無理難題を押し付けているように見えても、自身の人脈を駆使してリスクの少ないステージを用意しているあたり、諸星学園長は優しい方だと思います。


皆の力で輝くアイドル
不思議な力の克服方法は自己肯定感を得ること。不思議な力に頼らないでも大丈夫と思える心の強さが必要であると語られていました。この話は聞く分には楽ですが、実際に行うとなれば決して楽ではありません。

タイムで価値を競い合うスポーツマンと異なり、評価の基準が観客の主観で決まるアイドルは、努力しても成長している実感を得づらく、構造的に自分に自信を持ち難い。

人気のアイドルと普通のアイドルの差は、観客にも本人にもいまいち分かりません。運で決まる場合も往々にしてあるので、多少技術が磨かれていたとしても不安を抱いてしまいがちです。

その中で不安を解消する方法としてはエルザの様に完璧なアイドルになることが考えられます。アイドルの評価の基準が曖昧であるなら、歌唱に衣装にダンスにスタイルとあらゆる分野で秀でていればいい。

観客一人一人の感性の差異を無視してしまえる圧倒的なレベルまで磨き上げてしまえば、結果も自信も自然についてくるでしょう。

但し、身体を壊し続けているゆめにはそこまでする時間は残されていません。そこで諸星学園長は短期間で自信をつけさせる為に、ステージで観客の満足度を90%にするという無茶な試練を与えます。

失敗すれば退学させられてしまう。その不安を抱えるゆめに力を貸して心を支えてくれたのは、まだ見ぬ自分に期待してくれる先輩や友達でした。

ゆめ「私には応援してくれる仲間がいて、一緒に戦ってくれるライバルがいて、いつも導いてくれる先輩がいる。皆、私を信じてくれてる。だから自信を持って。」

あこにはMCスキルを教わり、真昼にはドレスメイクを教わり、ひめ先輩にはダンスを教わり、ローラには一緒に練習して貰います。自分の力は信じられなくても、仲間が信じてくれる自分の力は信じられる。そうして仲間に助けられたおかげで不思議な力を乗り越えます。


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輝きを渡そう
1年目も2年目も人から与えられた想いや教えを虹の如く重ねてきたゆめ。孤独な太陽であるエルザと対照的に、彼女は自分の力だけでは輝きません。レインボーベリーパルフェも幼馴染の小春と共に作り上げたブランド。

その様に皆に支えられてきたアイドルであるからこそ、決勝トーナメントでエルザに勝つ為に出した答えが皆で輝きたいになるのでしょう。

ゆめ「私には仲間がいる。皆がいれば私は最強だよ。皆で一緒に輝いてみせる。」

59話「あなたにも輝きを」、66話「エールを送ろう」、85話「輝きを渡そう」。1年目が皆に応援されてS4になるという夢を叶える物語とするなら、2年目は受けた恩を返す為に皆を輝かせる物語。

アイカツスターズ」2年目のゆめを初めて見た時は、夢を叶えた為に物語の軸を失くしてふわふわしていたように思えたのですが、全体を通して眺めてみると1年目と2年目で連続性があることが感じられますね。やはり好きな作品は繰り返し観る事が大切、その事を記事を書きながら改めて思わされました。

taida5656.hatenablog.com
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