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メディアミックスを成功させ続けるTYPE-MOON

エロゲー文化研究概論 増補改訂版

エロゲー文化研究概論 増補改訂版

みやもさんの「エロゲー文化研究概論」の増補改訂版を読了。初めて読んだ時に驚いた点は語られる作品の幅の広さ。ネットにあるエロゲーを語る場で名前を耳にする作品は古くても90年代であり、それ以前の作品について積極的に話す人は少数故に知識を深める機会がありませんでした。

その辺の知識がすっぽりと抜け落ちていた自分にとって、79年にハドソンから発売された「野球拳」を元祖に日本製のエロゲーを語る本書は目から鱗の連続でした。エロゲーを語る上で外せない同時代のアニメや漫画、社会的な事件や表現の規制にも触れており、それらがエロゲーとどの様に関わるのか多角的な観点で語られていました。

エロゲーはクリエイターの実力以外の技術的な面で表現の幅が大きく変わるジャンル、昔も今も変わらず紙と筆さえあれば何でも描ける漫画とはそこが大きく異なり、エロゲーの歴史を追い掛けると40年近くで技術がどれだけ進歩したのかも一緒に見えてきます。

本書で参考画像として掲載されているファミコンが活躍していた時代のエロゲーは、容量の問題で色数も少なく自分で描いた方がましに思える粗い絵でしたが、それは遠い昔の話で最近はエロシーンが滑らかに動くから大したものですよね。これならそろそろ人類の夢の一つであるVRエロゲーも身近な存在になるかもしれません。

とはいえエロゲーの違法ダウンロードが横行している影響も受けてメーカーが次々に倒産している状況では、既存のエロゲーメーカーが新たな技術を取り入れた作品を生み出す余裕は体力的に無い気がしています。どちらかといえば技術の進歩に合わせてゲームを変えていくよりは、全年齢版への移植や過去作品のリメイクやソシャゲへの進出を行い、過去に築いた資産を上手に活用するセンスが生き延びる鍵になっているのではないか、そんな風に本書を読みながら感じていました。

その方面で大成功したメーカーと言えば、TYPE-MOON以外には考えられないでしょう。10年前にはTYPE-MOONと同格の有名なメーカーは他にも幾つかありましたが、「Fate/Grand Order」の開始以降は知名度で大きく引き離しました。

TYPE-MOONが「Fate」だけで10年以上も市場で戦える背景には、シリーズの原点「Fate/stay night」のゲームが大勢のファンを獲得した傑作であることは言うまでもないですが、それ以外に新規ファンを増やす為のメディアミックスや二次創作に適した構造をしていた点も大きいと思います。


2クールのアニメで綺麗に収まる
エロゲーをアニメ化する場合に問題となるのは原作で複数あるルートをどのように纏めるか。1ルートが短か過ぎる作品はアニメ化する際には1ルートをひたすら引き延ばす、それか複数のルートを改編と圧縮を行い詰め込む選択を迫られます。前者は退屈で視聴者が飽きる欠点がありますが、後者も非常に難しくて強引に複数のルートを混ぜると、主人公が色んなヒロインに同時に手を出す不誠実な男に見えてしまったり、キャラの行動に一貫性が無くなって発言に矛盾点が生まれたりしてしまう恐れがあります。

アニメは例えるなら別ルートという平行世界に存在するキャラを統合しているので作業には細心の注意が必要です。作品によっては主人公があることをするとヒロインAが惚れるけど、それをしなければヒロインBが惚れるみたいな構造がありますからね。全部のルートを考え無しに繋げてみましたでは、視聴者の理解を拒む混沌とした世界を生むだけです。

今度は逆に1ルートが長い時ですが、こちらはまあ漫画やラノベのアニメ化と同様に原作を上手に圧縮しつつ、適当な山場を越えるまで進めることになると思います。ただし漫画やラノベと違っているのは、エロゲーはそもそも原作に複数の山場が用意されていない場合があるんですよね。

人気が無ければ打ち切られる漫画やラノベは、その恐怖に備えて数巻置きに綺麗に話が終わるポイントを途中に用意しますが、物語を完結させてから世に出すエロゲーにはそれを意識していない作品も見られます。まあアニメ化前提でエロゲーを作る方がどうかしているので当たり前の話なんですけどね。

マブラヴ オルタネイティヴ - PS Vita

マブラヴ オルタネイティヴ - PS Vita

アージュの「マブラヴオルタネイティヴ」はアニメ化が難しいと言われている理由もそれが大きな割合を占めます。「Fate/stay night」3ルート分に匹敵しそうな分量の一本道の作品をアニメ化するなんて、物語が無茶苦茶になる覚悟で詰め込んでも4クールは必要になるでしょう。社運を懸けてそれを実行に移せるエロゲーメーカーはまずいない。

6クールを費やしてアニメ化すれば「マブラヴオルタネイティヴ」も男性を中心に人気が出るはずなんですけどね。「マブラヴ」をパクったと作者が公言している「進撃の巨人」が人気作品になれたのですから、それと同程度の支持を男性から得ても不思議ではない。

話が変わりますが、最近の「進撃の巨人」は向かう先が「マブラヴ」とは変わってきたように感じてしまいます。「マブラヴ」は派生作品を除けば利害の対立から敵対する者同士でも、その心の奥には大切な仲間や国家を守ろうとする意志が宿り、人として尊敬に値する姿を見せてくれます。組織を描いた作品にありがちな私腹を肥やす以外が頭に無い無能な上官的なキャラが少ない。いまいち分からない人は「シンゴジラ」に登場するゴジラへの対処に全力で挑む官僚や自衛隊員をイメージして下さい。

それでは影響を受けた「進撃の巨人」はどうなっているのかというと、連載初期は人類の勝利の為に心臓を捧げる兵士を無様でも立派に見えるように描写していたのですが、巨人の正体が明かされて人間対人間の構図に変化してからはそれが次第に薄れていき、最近は同胞を守る人を思想を押し付ける狂信者的に描写しているんですよね。愛国心の正の面ではなく負の面を描き始めた「進撃の巨人」が見ている景色は「マブラヴ」とは別物になっている気配を感じます。

進撃の巨人(23) (講談社コミックス)

進撃の巨人(23) (講談社コミックス)

閑話休題。アニメ化に向かない構成に陥り易いエロゲーですが、「Fate/stay night」は幸運にも1ルートが2クールで足り、その後の「Fate/Zero」も2クールあれば十分な内容でした。アニメ化時に大幅な改編を行う必要が無く、そのおかげで最初のDEENによるアニメ化も評価は悪くありませんでした。

個人的にはセイバールートを主軸に別のルートを加えて、セイバールートだけでは存在意義が不明なキャラを活躍させたことは英断だと思っています。原作ではあっさり流されたアーチャー対バーサーカー、ランサー対ギルガメッシュを追加したことには本当に感謝しています。


女性に受ける魅力的な男性キャラ
アーチャー、ランサー、ギルガメッシュなど魅力的な男性が主人公以外にも多数登場。これが女性にも支持される要因になり、女性ファンの心を掴むことに成功した結果、何が起きるのかといえば二次創作が増加するんですよね。女性は絵を描ける人の割合が高いので、二次創作の中でも人目を引きやすいイラストや漫画が大量に増えます。

近年は「艦これ」や「刀剣乱舞」のヒットの仕方を見ても分かる通り、二次創作が非常に重要な意味を持ちます。正直に言って上記作品は企業の努力より、ファンの活動の方が作品の宣伝に貢献している気さえしています。プロに比肩する上手なイラストや漫画がTwitterに投稿され、それが何千回とRTされると作品を知らない層の目に入り、企業が何もせずとも作品の認知度は勝手に向上します。

Fate」は元々男性を対象に作られていた為に企業が普通に宣伝するだけでは、女性に情報は届き難い上に心にも響きません。それは女性層も意識した「FGO」であろうと例外ではありませんが、女性ファンが描いたものであれば話は別。そこには女性が萌えるポイントが表れている為、女性の心に刺さる効果的な宣伝になります。一応補足説明しておきますが、描き手が女性でも内容によっては男性にも喜ばれます。

文字だけでは伝わらない作品の魅力も、絵であれば伝わる時はあるというか、そもそも文字だけではTwitterに流れても興味の無い人に読まれない。一方画像は嫌でも目に入りますし、情報密度が濃くて記憶にも残りやすいです。そしてその手の二次創作がネットに投稿されて広まると、この作品は女性でも楽しめるものなんだなと見た人の心理的なハードルを下げてくれます。

実際に触れてみたら楽しめる作品であっても、全く知らないものには手を出せない人は多いので、そうした活動は地味に大切なことなんですよね。新規層を獲得する切欠になる以外にファンの作品への愛情を持続させる燃料にもなる二次創作、それが男女両方から生み出されやすい点が「Fate」と他のエロゲーの大きな差になると思います。


シェアワールドの結び付きを強める
アニメ化に適した構成と女性も楽しめる作風が「Fate」の人気を高めた要因にありますが、一昨年からはそこにシェアワールドの利点を活かした「FGO」が加わります。「Fate/stay night」が生み出した英霊召喚の設定を活かし、自社作品と偉人と神話を基に何十体ものサーヴァントを登場させた「FGO」。作り込まれたストーリーが評価されて注目を集め、この作品で初めて「Fate」の世界を経験した人達も大勢いるとかいないとか。

先程「FGO」はストーリーが魅力的と書きましたが、それはあくまでソシャゲとしてであって「Fate/stay night」と肩を並べる程ではありません。ただしその代わり「FGO」にはプレイヤーがサーヴァントを育てて戦わせる楽しみがありますし、また大量のサーヴァントが登場する世界観が二次創作に適した遊び場として機能して、様々な漫画が描かれていき多方面から「FGO」を補強してくれます。

手に入れたキャラを苦労して育てて戦わせる。これがあるとキャラに愛着が湧いて、作品への没入感が飛躍的に高まります。受動的に画面に流れる文章を読まされるだけのノベルゲームでは持ち得ない魅力がそこにはある。その感覚はRPGをプレイした方なら分かると思います。パートナーのマシュは最初は弱くて使えないのですが、ストーリーを進めるに連れて少しずつ頼もしくなり、終盤はマシュがいないなんて考えられないという気分になってきますからね。

プレイヤーと共に死線を潜り抜けたキャラは自然と好きになるもので、プレイヤーは彼等が登場する別作品への興味も抱くようになります。最近なら「FGO」をプレイして愛着の湧いたジャンヌやモードレッドが活躍しているから「Fate/ Apocrypha」も読み始めたという人は多いのではないでしょうか。

TYPE-MOONの弱点に奈須きのこさんが執筆した作品以外は需要が少ないと言うものがあり、桜井光さんの「Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ」や東出祐一郎さんの「Fate/ Apocrypha」もそれ単体では集客力に欠けますが、その問題を「FGO」は見事に解消してくれました。これはシェアワールドの使い方として最高の部類。TYPE-MOONが成功を続ける背景には、アニメ化やソシャゲ化とメディアミックスにおいて、作品の魅力を削がずに発揮してきたことはあるでしょう。

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