アニメごろごろ

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ライトノベルと小説家になろうが向かう先

Another World(アニメジャケット盤)

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ラノベ業界を支える小説家になろう
書籍化、コミカライズ化、アニメ化と広がりを見せている小説家になろう作品。今期も「ナイツ&マジック」に「異世界はスマートフォンとともに」に「異世界食堂」と3作品がアニメ化されており、近年のアニメを語る上で無視が出来ない存在になりました。

書籍化ラッシュが起きた時は、小説家になろうと一般的なラノベは作風も異なるので住み分けもされて、ライバルにはならないと楽観視していたラノベ作家もいましたが、そんなことを呑気に言えるラノベ作家は今は殆んどいないでしょう。

ラノベ作家のみならず漫画家も小説家になろうを軽視していられない状況になりつつあります。小説家になろう作品のコミカライズ化は、集英社小学館で仕事をしている漫画家にはあまり縁の無い話ですが、コミカライズ作品が大きな柱の角川で仕事をしている漫画家は無視が出来ません。

角川の少年エースでは「異世界迷宮でハーレムを」に「ネクストライフ」に「異世界チート魔術師」とコミカライズ作品が急増、さらに「この素晴らしい世界に祝福を」の暁なつめ先生が脚本を担当する「けものみち」が連載連載、その掲載枠を空けようとして不人気のオリジナル作品が次々と打ち切られていきました。

小説家になろう作品は下手なアニメ化作品よりも人気が高く、コミカライズ作品は連載が長期化しやすい。それが増えることで知名度や実力が低い漫画家はオリジナル作品を出し難い方向に進んでいますが、この流れはストーリーを作ることが不得手でコミカライズをやりたい漫画家には金を得る良い機会にもなり、「転生したらスライムだった件」の作画を担当する川上泰樹先生はそれで大成功しています。

創刊から暫くの間は看板作品が「IS」しか無かったオーバーラップ文庫小説家になろう作品を主力に切り換え、その他のレーベルも小説家になろう作品と区別がつかない「異世界」とタイトルに入れた作品を次々に刊行し、小説家になろうに染まり始めるラノベ業界。角川が立ち上げた小説投稿サイトのカクヨムが現状を変えるかと期待していましたが、サイトが使い難い所為もあるのか大きな影響を与えていないようです。

今のところカクヨムでそこそこ成功した作品は「横浜駅SF」など極一部、ラノベ市場から小説家になろう的な作品が廃れるまで10年以上は掛かる気がします。少なくとも5年は今の流れのまま進んでいくと思います。そこまで続くのかなど疑問もあるかと思いますが、小説家になろうのブームなんてすぐに去ると色んな人に言われ続けながら、既にここまで来ていますから侮れません。

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

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流行作品の真似だけでは生き残れない
ラノベ市場が小説家になろう的な異世界チートハーレムで埋め尽くされ、それ以外の作品は売上が振るわず淘汰されていき、将来的にラノベから物語の多様性が失われるのではないか。そんな風に小説家になろうの流行を心配する声もありますが、個人的には物語の多様性の消失は気にならなくなりました。

現に小説家になろうが受ける中でも「エロマンガ先生」や「冴えない彼女の育てかた」に代表されるクリエイターものという異世界と無関係なジャンルが流行していますし、小説家になろう的な異世界チートハーレムに分類される作品でも高評価を受ける作品はそれ以外の魅力を持ちます。

力も女も思い通りに手に入る読者の欲望に忠実な異世界チートハーレムは、時代を越えて愛される物語類型ではありますが、それしか見所の無い作品が楽に生き残れるほど世の中は甘くはないですよね。あっさりと敵を倒して女に惚れられるなんて楽しかない人生は何も起きない平坦な人生と変わらない。最初は魅力的に思えても物語に波が無く、同じ事の繰り返しが10巻を過ぎれば読者は飽きてきます。その山も谷も無い作品が最近は好かれるのだと主張する人もいますが、全体を見れば主人公に優しくない作品は幾らでもあります。

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主人公を追い詰めて読者のストレスを溜める展開は小説家になろうで忌避されますが、そこから逃げる作品はラノベ市場では通用してもアニメ市場では通用しません。万人に愛される作品は基本的に苦も楽もあるものです。読者の感動を最大化する為には思い通りに進まない出来事も不可欠。これは大成功した「君の名は」と「シンゴジラ」にも当てはまります。

小説家になろうで受ける為に最強の主人公を褒め称えるストレスフリーな作風を変える気がないのであれば、経済や軍事や科学の一般常識を超えた知識を入れるか、主人公が解決する事件に関わる人達のドラマを膨らませる必要は生まれるでしょうね。

本当に評価される作品は「Re:ゼロから始める異世界生活」みたいに異世界チートハーレムのテンプレから外してくる場合が多く、小説家になろうの頂点に立つ「無職転生」はルーデウスが圧倒的な才能で俺TUEEE的な展開をしたかと思えば、突然生前のニートであった頃の嫌なトラウマを呼び起こす出来事を入れてきたり、普通に道を歩いているところでラスボス級の敵に殺されかけたり、ルーデウスも読者も心の準備をしていない時に酷い目に遭わされます。その唐突な展開にはまさに理不尽としか言い様が無い。

作者の理不尽な孫の手先生はとても計算して作品を書く作家で、ルーデウスが活躍して読者の気分が良くなっているタイミングを読んで落としてきます。小説家になろうには現実に不満を抱く読者がストレスを発散する為に読むストレスフリーな作品が多いと批判されがちですけど、それだけが読者に支持される場所ではないことは「無職転生」を読めば分かります。

これは駄目な無職の心を優しく癒す物語ではなく、無職の心を折りながら現実に立ち向かわせる物語。ちなみに「無職転生」は主人公の結婚や老衰死が描かれているのですが、その人生を語る作風は理不尽な孫の手先生が好きな水上悟志作品と通じるところがありますね。

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異世界迷宮の最深部を目指そう 1 (オーバーラップ文庫)

異世界迷宮の最深部を目指そう 1 (オーバーラップ文庫)

異世界チートハーレムに見せかけた厳しい物語
オーバーラップ文庫から刊行されている小説家になろう作品の中で最も長い「異世界迷宮の最深部を目指そう」もテンプレからのずらしが随所に見られます。主人公のカナミは小説家になろう作品では珍しく家族の待つ元の世界への帰還が最優先、ちなみカナミの目的に生きる姿勢が彼を後に苦しめることになります。

ヒロインの好意に気が付かない鈍感系主人公と正反対の敏感系主人公で、ヒロインの感情の機微を読み取る能力を持つ故に恋愛問題で頭を悩ませることになるんですよね。ヒロインの多くは特殊な環境で生きた為か精神に問題を抱えており、その気質はヤンデレに近くてカナミの置かれた状況は男が夢に見る美少女ハーレムなんて呼べるものではないです。「リゼロ」で例えるならレムやロズワールに似た危うさを持っています。

異世界チートハーレムというか男の子の物語のゴールと言える世界を救済して人々に尊敬される英雄、その男の子が憧れる英雄の在り方に否定的な部分も「異世界迷宮の最深部を目指そう」の特徴。英雄をまるで人を役割に縛り付ける呪いであるかのような描き方をしています。あらすじこ異世界チートハーレムですが、本質は暗く重く「ブラックブレット」や「異世界拷問姫」で挿絵担当の鵜飼沙樹さんがファンになる内容と言えば、分かる人には分かると思います。


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本題から逸れる話になりますが、下記のサイトに掲載されている鵜飼沙樹さんの「異世界迷宮の最深部を目指そう」の設定画は必見です。イラストレーターがキャラをデザインする時の思考の過程が覗けるので、作品を知らない人でもイラストに興味があれば楽しめるはず。画像を最大化して設定画に書かれた説明を読むと作品に向ける熱意が凄い伝わってきます。これだけイラストレーターに力を入れてもらえて喜ばない作者はまずいないのではないでしょうか。


ティティー、ノスフィー By 割内@タリサ|みてみん


異世界チートハーレムの不快感を軽減する方法
異世界チートハーレムを好む層は厚いですが、嫌う層も厚くて批判を受けやすいジャンル。上記作品は異世界チートハーレムの要素を含みながらも、主人公に厳しい試練を課すので批判をあまり受けずに済んでいますが、そうした展開を入れなくても批判を避ける方法はあるんですよね。それを説明する前に異世界チートハーレムが嫌われる理由について述べていきます。

嫌う人の意見には「努力しない奴が勝ち組になるのはおかしい」「普通の高校生や社会人が異世界に来ても世界を変えられる訳が無い」「主人公を活躍させようとして敵も味方も馬鹿しかいない」といったものがあります。それらの意見を要約すると世界が主人公に都合が良すぎることが気に入らない。

主人公に都合の良い世界を気に入らないと主張する読者も色々いて作品を不快に感じるというより、主人公に自己投影して悦に入る読者や読者に甘い夢を見せるだけの作者を不快に感じている場合も少なくありません。この様に読者の不満の原因が物語自体から離れた場所にある場合、批判は主人公を自己投影の対象であると思わせなくすることによって避けられます。

具体的にどうすればいいかというと、どこにでもいる中肉中背の黒髪主人公は読者と共通点が多く自己投影の対象に見えやすいので、そこから逃れる方法は主人公をスライムや骸骨や蜘蛛と人外の存在にすること。この一歩手前が「幼女戦記」や「ナイツ&マジック」のように主人公の外見を幼くして主要な読者から逸らすことになります。

外見の変更は視覚情報が大きな割合を占める漫画やアニメになると絶大な効果を発揮します。所詮憶測に過ぎませんが「オーバーロード」のアインズ様もキリトや上条さんみたいな外見にされていたら批判は増えていたでしょう。逆に「魔法科高校の劣等生」の司波達也十文字克人みたいな男の中の男みたいな外見なら批判は減っていたでしょう。

たったそれだけの工夫で読者の反応は変わるんですよね。読者が外見を気にすることはラノベにおける美少女率の高さを見れば異論は無いかと。美少女である意味や女性である意味が読者を喜ばせる以外に皆無のキャラはよくいます。

まだまだ盛り上がりを見せるラノベ業界
小説家になろうにありがちな異世界チートハーレムも数が増えれば自然と分化する。特定のジャンルしか評価されない環境で潰される作品もありますが、逆にその環境で独自の進化を遂げて注目を浴びる作品も生まれます。

仮に市場に流通する作品の9割が流行作品の劣化コピーだとしても、マニアは別として大多数の読者が手に取るのは1割に満たない選び抜かれた作品。読者の立場で考えるなら大切なのはそこですよね。平均ではなく頂点を評価軸に据えた場合、最近のラノベは非常に魅力的だと個人的には思います。

ちなみに今回の記事で取り上げた異世界チートハーレムは小説家になろうの一部でしかなく、小説家になろうにはこれ以外にも女性に人気の悪役令嬢ものなんかもあり、最近は女性に人気の作品がコミカライズを通して世間に広まってきています。そこには男性が読んでも楽しめる作品が沢山ありますし、アニメ化も可能な良作が幾つも残されているので、ラノベ業界の未来は当分の間は明るそうですね。

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