アニメごろごろ

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「クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃」感想

劇場映画シリーズ第23作目
監督 橋本昌和


物語と映像のバランスが取れた秀作
嵐を呼ぶシリーズが終了してからは「B級グルメサバイバル」に「ロボとーちゃん」と評判が良い作品が続いており、この「サボテン大進撃」もその例に漏れずに大迫力の映像と見事に組み上げられた物語を披露してくれました。基本的にメキシコに引っ越した野原一家がキラーサボテンに追い掛けられるパニックもので、「ロボとーちゃん」に見られた観客を泣かせる為のドラマの積み上げはされていません。作品の方向性としてはあまり感動させることに重点を置いてはいないのですが、それでも序盤のメキシコへの転勤を命じられて単身赴任を考えるひろしの姿や野原一家が友人知人と別れる場面は涙を誘います。

ひろしが家族を置いてメキシコに単身赴任すれば、残された家族は友人関係の維持が出来て生活に不便を感じませんが、その代わりにひろしは愛する子供との思い出を作る機会を数年間失います。みさえとしんのすけとひまわりが共に過ごした時間、それを孤独に耐えて働いた自分だけが知らないというのは辛いですよね。子供が小さい頃の数年間は本当に貴重なもので、それは家族の絆を深めて人生に輝きを与える金では決して買えない財産。ひろしが葛藤の末にメキシコに単身赴任することが最善であると結論を出す姿に胸が締め付けられます。そんなひろしに対してみさえは自分一人で問題を抱え込んで勝手に結論を出さないでと真剣に怒ります。大切な家族であるひろしの身を案じているからこそ許せない。たとえ結論が変わらないとしても、大切な家族の話は家族で話し合うべき。みさえの苦しみも分かち合おうとする態度に夫婦の愛情を感じて思わず泣きました。


自分が本当に守らなければならないもの
クレヨンしんちゃん」において優先すべきは笑わせることで脚本の整合性等は二の次。唐突な展開も悪役の適当な動機も許される場所なので伏線なんかも張る必要も無いのですが、そうした観客が特に気にしないであろう細かい点が「サボテン大襲撃」はやたらに上手くて驚きました。世界一美味しいと言われるメキシコのコーラを作中に出して終わりにするのではなく、振ると激しく飛び出すコーラの特徴を活かして遠距離から水に弱いキラーサボテンに浴びせる。引っ越す前に渡されたかすかべ防衛隊のバッジの針、それが最後に巨大なキラーサボテンを倒す鍵になるなど道具の使い方が練られているんですよね。

この他に野原一家と分かり合えずにいたマダクエルヨバカ町長の設定も巧くて、町長は寂れる町に活気を取り戻すことに夢中で、突如現れたキラーサボテンを商売に利用する方法は考えていても、キラーサボテンに襲われた住民を助ける意識は頭から抜けていました。本来であれば町長として住民の安全を第一に行動しなければなりません。その点が自分達の居場所を守ろうとするよりも、大切な家族と共に過ごす道を優先した野原一家とは対照的。「サボテン大襲撃」は自分が守るべきものは何かを問われる作品であり、町長とレインボー仮面はそこに気が付いて、最後は皆の為にキラーサボテンに立ち向かいました。

映像に関しては最近の作品の中では上位に入る出来で、「ヘンダーランド」や「ヤキニクロード」の追走劇の動きに心を奪われたファンなら楽しめる。前半の動きが少ない会話の場面も構図や陰影の付け方が工夫されていて、台詞からでは伝わらない部長に呼び出された時の何か悪い事が起きそうな空気、家族全員で引っ越すと決めた後の野原一家の晴れ晴れとした気分が見事に表現されていました。「クレヨンしんちゃん」の映画に求める要素がかなり詰め込まれていて個人的に大満足。嵐を呼ぶシリーズに入る前の作品が好きなら見ても損はないと思います。