前の記事で新人賞受賞作品に関してはMF文庫より電撃文庫の方が打ち切られないと書きましたが、あの時はデータも集計せずに直感で書いただけでしたので、その意見の真偽を確かめる為にまた色々と調べてきました。集計範囲は10年から14年までの5年間、未刊行の作品は除外しました。電撃小説大賞とファンタジア大賞のグラフには、メディアワークス文庫と富士見L文庫から刊行された作品が僅かに含まれ、電撃文庫とファンタジア文庫に限定してグラフを作成した場合は1巻の割合が少し減ります。
3巻の壁を越えて本が出せるライトノベルレーベル - アニメ見ながらごろごろしたい
電撃小説大賞 42作品
アニメ化&漫画化
「はたらく魔王さま」
「ゼロから始める魔法の書」
漫画化
「青春ラリアット」
「アイドライジング」
「いでおろーぐ!」
MF文庫新人賞 32作品
アニメ化&漫画化
「変態王子と笑わない猫。」
漫画化
「つきツキ!」
電撃文庫ではメディアミックスが行われた作品が新人賞から何本も出ており、歴代の受賞作品を見ても「ブギーポップは笑わない」「バッカーノ」「狼と香辛料」「アクセルワールド」「ロウきゅーぶ」とアニメ化して電撃文庫を支えた良作が幾つも出ています。
受賞作品の数が多い事を差し引いてもメディアミックスはされやすいですね。応募総数が年間何千とその辺のレーベルとは桁が違うだけあって、主力になれるだけの質の高い作品が集まりやすいのでしょう。最近はWEB小説に投稿してスカウトを狙う書き手が増えた影響なのか応募総数は減少してきています。
電撃文庫とMF文庫の両方に当て嵌まる話ですが、受賞作品は普通の作品と比較して打ち切られ難い傾向にあり、上記の記事に貼り付けたグラフと並べて見ると、その差の大きさは一目で分かります。MF文庫の受賞作品は電撃文庫みたいなアニメ化など大きな動きこそ少ないものの、数年単位で見れば意外と続いている作品が多いですね。
ガガガ文庫新人賞 25作品
アニメ化&漫画化
「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」
「俺、ツインテールになります。」
漫画化
「寄生彼女サナ」
ファンタジア大賞 30作品
アニメ化&漫画化
「勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。」
「空戦魔導士候補生の教官」
「ロクでなし魔術講師と禁忌教典」
漫画化
「ライジン×ライジン」
「できそこないの魔獣錬磨師」
ガガガ文庫は受賞作品が1巻で完結する割合が高め。これだけで判断すると打ち切られやすいと感じられるでしょうけど、ガガガ文庫にはメディアワークス文庫や富士見L文庫のようにシリーズ化を考えていない作品を応募する作者が多いので、グラフを見ただけでは続きを出せるレーベルなのか実態は掴めません。ガガガ文庫の受賞作品は2巻や3巻まで続いた作品より、1巻しか出ていない「こうして彼は屋上を燃やすことにした」や「脱兎リベンジ」の方が売上も評判もいい位ですし、1巻しか出ない作品を安易に打ち切られたと考えない方がいいです。
富士見ファンタジア文庫は電撃文庫と同様に受賞作品がアニメ化や漫画化がされやすく、一昨年に受賞した「アサシンズプライド」も漫画化が決定しました。近年は新人賞に力を入れているようで、公式サイトでは受賞作品に興味を持たせる為に様々な取り組みを行っています。アニメや漫画の出来は平均すると電撃文庫に負けますが、大人気と言えない微妙な売上でもそれらが行われるのはファンタジア文庫の長所。
ファミ通文庫新人賞 21作品
アニメ化&漫画化
「犬とハサミは使いよう」
「龍ヶ嬢七々々の埋蔵金」
スニーカー大賞 19作品
アニメ化&漫画化
「魔装学園H×H」
ファミ通文庫はアニメ化作品の殆んどが受賞作品。古いものでは「吉永さん家のガーゴイル」「狂乱家族日記」「バカとテストと召喚獣」があります。ファミ通文庫は日日日先生や井上堅二など実力の高い作家を新人賞で見つけてはいるんですけど、残念ながら電撃文庫の様に作家を手元に繋ぎ止められてはいないんですよね。
スニーカー文庫は賞を与えても世には出さない事が時々あるレーベルで、4作品が受賞しても刊行されたのは1作品なんて年もありました。「問題児たちが異世界から来るそうですよ?」の竜ノ湖太郎先生も受賞作品は出していません。ちなみにその作品は「問題児」の続編の「ラストエンブリオ」の外伝的な形で発売されるとかされないとか。
GA文庫大賞 34作品
アニメ化&漫画化
「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」
漫画化
「うちの居候が世界を掌握している」
GA文庫では刊行された場合は高確率で3巻や4巻まで続けさせてもらえます。折角受賞しても簡単に打ち切られるのは避けたいという人達には適したレーベル。このGA文庫の方針は電撃文庫やファンタジア文庫に対抗する為に有効な手法で、規模が小さく頻繁にメディアミックスを行えないレーベルの場合は、その辺の独自の魅力が無ければ優秀な人材を集められません。一般的に体力の少ないレーベルは売れない作品を早々に切り捨てる方に流れやすいですが、普通に考えてそれを繰り返すレーベルに付いていきたいなんて作家は少ないですよね。その様な作家を大切にする工夫を怠るレーベルは微妙な作品しか集められず、徐々に弱体化して最後は小説家になろうに頼る事になる気がします。
応募者を増やす方法にイラストレーターを決める権利を作者に与えるというのもありますが、それを魅力として大々的に宣伝するレーベルはまだないですね。作者の要望を聞いて柔軟に対応するレーベルはあるんですけど、絶対に作者の要望に応えられる訳ではありませんし、その点を魅力として宣伝するのは難しいのでしょう。どの様なイラストになるのかは作者が気にするポイントなので、そこに対する不安を除けば規模の小さいレーベルでも応募者は増えそうです。
それでは最後に何処の新人賞に応募すればいいかについてですが、個人的には自分の作風が合うレーベルを第一に選ぶべきだと思いますが、それを抜きに考えるのであればファンタジア大賞が狙い目かなと思います。電撃文庫よりは受賞の難易度が低いですし、MF文庫よりはメディアミックスが行われやすいですし、そして近年は新人賞に力を入れているレーベルですからね。まあここで受賞した場合は新刊を出す以外にドラゴンマガジンで短編を書かされる仕事も足されるので注意は必要。