アニメごろごろ

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原作小説の本質を押さえた改変が行われた「天鏡のアルデラミン」

アニメ化の機会に恵まれながら、脚本で悲惨な目に遭いやすいライトノベル。アニメの脚本に関しては読者から不満が出ない方が珍しい気がするのですが、時折「落第騎士の英雄譚」の様に原作の魅力を引き出せた作品も見られ、去年放送された「天鏡のアルデラミン」もキャラデザはともかくとして脚本に関しては中々の出来でした。

この作品の大きな柱にはイクタと手を組んで自国のカトヴァーナ帝国を敗戦に向かわせるシャミーユの物語、未来の無いカトヴァーナ帝国からヤトリを連れ出そうとするイクタの物語があり、アニメは後者を強調する構成に変更されていました。

1話冒頭(原作7巻)

5話(原作7巻)

13話終盤(原作1巻と7巻)
極めて重要な箇所は上記の3点、アニメは基本的に1巻から3巻までを映像化していますが、その合間に7巻で描かれたイクタとヤトリの過去編を入れています。物語の方向性を示す1話の冒頭はイクタが「君を拐いに来たんだヤトリ、未来の無いこの国から」と語る場面から始められ、5話では幼いイクタとヤトリが知り合い共に過ごした日々が描かれます。

5話の役割はイクタとヤトリの絆が深い事とヤトリの人物像を視聴者に伝える事。イクタとヤトリが互いに背中を預ける程の親密な関係に至る過程が描かれたおかげで、ヤトリを救い出そうとするイクタの行動に感情移入しやすく、ヤトリがイクタを信頼する理由に説得力が生まれるんですよね。

この話ではイグセムの家系に生まれたヤトリは軍人として生きる道しか教えられず、帝国に忠誠を誓い命令があれば自分の心を殺して戦い続ける少女である事も語られます。ヤトリはイクタが帝国に反旗を翻せば容赦なく殺す覚悟を持ち、それはイクタが自分の母親を侮辱する発言をしたシャミーユに激情をぶつけた時の反応からも分かります。

そうした軍人の役割に徹するヤトリの生き方と政治が腐敗して苦境に立たされる帝国の現状を合わせるとある未来が見えてきます。それは滅びに向かう帝国で戦い続けた果てに命を落とすという未来。簡単に言えばアニメの方はヤトリの死亡フラグを丁寧に立てているんですよね。具体的な描写の説明は省きますが、アニメは視聴者がヤトリの死を感じ取れる様に意識して作られています。

それでは最終回の説明の方に移りたいと思います。最終回のBパートでは本来なら4話に入るはずのシャミーユの帝国を敗戦に導く計画が語られ、Cパートでは改めてイクタが帝国からヤトリを拐いに来たと言う場面で物語は幕を閉じます。

敗戦に伴う敵国の干渉を利用して帝国を建て直すシャミーユの計画を実行に移せば、遠くない未来に今ある帝国を守護するイグセムと衝突して命を奪う可能性は高い。帝国を滅ぼす側と護る側ですから当然ですよね。BパートとCパートの内容は原作では独立していた為に、シャミーユの計画がヤトリの運命にどう作用するのかは伝わり難いのですが、アニメはそれを連続して描いた事でこのまま物語が進めば、ヤトリが死ぬのではないかという風に悲劇的な物語を予感させる展開になりました。この脚本の構成は本当に素晴らしいですね。

仮にここでエピソードの順番を原作から入れ換えなければ、最終回は北域動乱から帰還したイクタが自分の戦功を脇役のサザルーフに押し付け、担ぎ上げるだけの盛り上がりに欠けるものになっていましたからね。それに対してアニメは物語の支柱となる愛し合うイクタとヤトリが敵対する運命、それを最初から最後まで一貫して暗示させる見せ方をしていたので、変な言い方ですけど原作よりも原作らしい。

作者は基本的に打ち切りを計算しながら物語を作る為に、人気になるか読めない序盤では無駄に物語を広げる展開は控えますし、逆に人気が出た場合は当初の予定にはない展開も入れたりするので、全体から見ると物語の構成に粗が生まれやすい。それに対してアニメは最初から何話で完結するか決められ、原作が何巻も続いて物語の構造が見えた状態から制作されるので、そこから逆算して序盤の展開もその物語に適した構成に修正する事が出来るんですよね。

市村徹夫監督が物語の全体像を俯瞰して再構成の指示を出したおかげか「天境のアルデラミン」の脚本は完成度が非常に高く、最終回を最大の見せ所にする為に必要な数々の描写を積み重ねていました。OPとEDでは炎に包まれるヤトリと手を伸ばすイクタの姿が描かれていましたし、市村徹夫監督のイクタとヤトリの悲劇的な運命を仄めかす演出は徹底していますね。キャラデザは賛否両論ですけど、個人的には非常に楽しめた作品でした。

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