アニメごろごろ

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「クロムクロ」地球に平和が訪れようと戦場に生きる道を選ぶ侍

今年は中盤から終盤にかけて視聴者からの評価が大幅に下がるオリジナルアニメが目立ちましたが、「クロムクロ」は作画も脚本も最後まで安定して良い出来でした。地球を守る為に宇宙人と戦いながら仲間との絆を深めるロボットもの。古き良き王道の雰囲気を感じさせる「クロムクロ」は正直に言うと地味で新しいと思える部分は少ないと感じていましたが、その印象は地球を守り抜いたその後を描いた25話と26話で見事に覆されましたね。少し前から見たい見たいと願い続けていた展開がついに見れました。

宇宙人はまだ本気を出していないだけ
地球侵略を企む宇宙人は何故主人公達に負けてしまうのか。普通に考えると地球まで来れる程の技術力があれば、局所的に敗北しても最終的には地球人如きに敗北するはずがないのですが、それでも何故か地球人が勝利してしまいます。これが起きるのは宇宙人が本気を出していないなどの様々な事情があるからだと思われます。例えば「ドラゴンボール」ではサイヤ人達は地球以外の惑星も攻めていた為に、重要度の低い地球に送り込まれたのは下級戦士のカカロットだけでした。

こんな風に地球侵略に来たのが宇宙人の一部でしかない場合は、地球人が宇宙人の手から守り切れる可能性も生まれます。実は地球侵略に来た宇宙人は出世街道から外れた連中で、まともな装備を与えられずに物資の補給も無いのであれば、地球人がロボットを奪い取れば勝ち目は有りそうですね。宇宙人も割に合わない戦いなんてしようとしないので、地球人に予想以上の抵抗をされたら成果を出せない地球担当の司令官を首にして、別の惑星に人員を投入しようと考えるかもしれません。

クロムクロ」も激闘の末に倒したエフィドルグは使い捨ての先遣隊に過ぎず本隊は別にいる設定。剣之介達が先遣隊を倒して空間転移装置の起動を阻止した事によって、本隊が地球に到着するのは200年以上先の話になりましたが、地球以外では今現在もエフィドルグと反対勢力の戦闘が続いているそうです。普通なら先遣隊を倒して地球の平和を取り戻した後は、未来の脅威に備えて皆で頑張ろうという希望を感じる話を最終回のBパートでやるかやらないかなんですけど、「クロムクロ」はそんな簡単に明るい方向に行かない話が2話も費やして描かれています。

一般人の美夏や赤城が将来の事を考えて動き出そうとしている裏で、各国はエフィドルグの本隊が来る事に備える名目で軍拡競争を始め、地球を守る為に共に戦った宇宙人のムエッタとゼルは首輪を付けられ行動を制限されます。特にムエッタはエフィドルグの駒として作られ利用されていた可哀想な存在とはいえ、地球人と敵対していたせいでモルモットの様な扱いを受けてしまいます。個人的にはこの敵を倒したからそれで終わりとはならない大人の世界がとても楽しめました。

クロムクロ OST

クロムクロ OST

戦場でしか生きられない侍の道
今を生きる由希奈達には将来の夢も帰る場所もありますが、戦国時代の侍である剣之介はどこに進めばいいのか。戦う為に生きてきた剣之介は戦う為に作られたムエッタと同様に、平和な世界では何を目的に生きればいいのか分かりません。世界を平和にした英雄のその後の生き方、これは近年の作品では問われる事が多い気がします。強大な力を持つ者は平和な世界には不要でいない方がいい時もある。「マギ」のシンドバッドや「グレンラガン」のシモンなんかはそこを問われたキャラですね。ちなみにそうしたキャラは最終的に特別な力を使わずに、平凡な一般人として平穏な日常を過ごす展開が最近の主流に感じられます。

考えた末に剣之介が出した答えはムエッタとゼルを連れて、エフィドルグに抵抗する反対勢力の元に向かい共に戦い、今を生きる者達が安心して未来を手にする為の礎となる事でした。地球に平和が訪れて由希奈と結婚する道もあるにも関わらず、わざわざ生きて帰れる保障の無い厳しい戦場に向かうなんて正気の沙汰とは思えません。目の前に敵がいて自分が戦わなければ地球が滅ぶ状況なら戦う道しか残されていませんが、剣之介が挑もうとしているのはそうではありませんからね。

フィドルグの本隊と戦える規模の反対勢力に剣之介が加勢しても、恐らく戦局を左右するには至らないでしょう。由希奈を嫁にする約束を反故にしてまでやる事では無いと思いますが、それでも命の恩人であるゼルに助力して未来の平和を守る為に戦うのが剣之介。それが侍に生まれてきた剣之介が考えた自分に出来る事。国家や世界の為に命を懸けるよりも身近な人達の幸福を考える傾向の強い現代人には理解が難しい価値観。

異なる時代や世界の人間が現代での生活を通すと価値観が変わる事もありますが、剣之介は根底にあるものが最後までぶれずにいました。仮に価値観が現代的に染められていたなら、戦いを続ける結末は有り得ないのではないかと思います。「クロムクロ」は戦いに生きる侍としての在り方が揺らがない剣之介がいたからこそ、視聴者目線に寄せた平凡な主人公が牽引する物語には無い魅力が出せていました。

最終回は由希奈を置いてムエッタとゼルと戦場に向かう剣之介、由希奈を剣之介と一緒に行かせる手助けをする友人達、子供達を戦わせない為に止める大人達、仲間同士が相手の事を大切に想うが故に対立するドラマが胸を打ちました。最後にかつての仲間だったトムとシェンミィが最強のロボットを操縦して、剣之介と由希奈を止める為に立ち塞がる展開とか燃えますよね。

クロムクロ」はジャンルがロボットものとそれまでのP.A.WORKSとは縁の無いものでしたが、パイロットとしてではない普通の日常を生きる若者のドラマが丁寧に描かれているなど、その物語は沢山の青春ドラマを生み出したP.A.WORKSらしいもの。今年のアニメではこれを越える爽やかな終わり方は無いと思える素晴らしい最終回で大満足。