HUNTER×HUNTER モノクロ版 32 (ジャンプコミックスDIGITAL)
- 作者: 冨樫義博
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/04/04
- メディア: Kindle版
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最初の頃に幽助に生き返る意欲が湧いたのは温子と螢子が悲しむ姿を見るのが嫌だから、幻海師範門下生大選考会に潜入捜査をしたのは褒美の格闘技のチケットに釣られて、暗黒武術会に出場した動機は戸愚呂に殺されるから止むを得ず。
周囲の人達が何も干渉せずとも次々に世界的な偉業を成し遂げるジンとは異なり、誰かが事件に巻き込まなければ幽助は大きな事をしようとは思わないんですよね。「ドラゴンボール」の悟空と同様に戦闘が好きとはいえ、戦闘に対する態度は向上心の高い格闘家ではなく不良のそれに近いので、寝る間も惜しんで毎日飽きもせずに鍛えている様子はありません。
魔族になるなど大きな力を手にしても生き方は普通の不良をしていた頃と大して変わらず、最後はラーメン屋を営みながら、時々舞い込む妖怪関連の相談事を受けるだけ。「ヒカルの碁」の進藤ヒカルや「NARUTO」のうずまきナルトみたいに力を発揮して人生を変えたりしません。子供の頃は幽助の地味な生活がそんなに好きでは無かったのですが、今はあれが幽助の魅力でもあると感じられるようになりました。
大きな力を手にして大きな事が出来れば幸福かというと必ずしもそうではない。それは「デスノート」の夜神月や「幽遊白書」の仙水編に登場する特別な力を持つ所為で道を踏み外した人達を見れば分かります。仙水も妖怪を退治する力を持たなければ、人間の醜悪さに気が付かないまま幸福に生きられたかもしれません。
仙水みたいに真面目な性格で使命感が強いと道を踏み外した時にどん底まで落ちやすいんですよね。強大な力を持ち壊せるものが多ければ被害の規模も桁違いになります。それを思うと幽助のやる気の無さは変な方向に進みづらいという長所と言えます。基本的にやりたい事が少ないから、力があろうとなかろうとやる事はあまり変わりません。
力に振り回されないで自分に適した生き方としてラーメン屋を選んだ幽助の姿は、野心も持たず魔界の奥でひっそりと暮らしているS級妖怪と重なるものを感じます。「幽遊白書」の戦いから遠ざかり些細な問題を解決しながら日常を過ごす終わり方は、繰り返されるパワーインフレとトーナメントに飽きた冨樫先生らしいものだと思います。少年漫画的な単純な成長物語にしない為にも、あそこはむしろ地味に思える見せ方の方がいいのではないでしょうか。