アニメごろごろ

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全国大会は魅力的な宿敵や好敵手を登場させづらい

全国に知り合いを作る
「ハイキュー」では主人公が所属する宮城県立烏野高校のバレーボール部が、数年前に交流のあった東京都立音駒高校に誘われ関東の強豪校が参加する合同合宿に参加、そこで全国大会にも出場している梟谷学園高校と親睦を深めます。この展開は全国大会における主人公達の好敵手を用意するのが難しいというスポーツ漫画の問題を見事に解決していて上手いですね。

少年向けのスポーツ漫画では読者が親近感を抱けるように中学や高校の部活を舞台に選び、全国制覇が当たり前ではつまらないから全国大会出場が困難な弱小校に主人公を入学させる場合が多いのですが、この設定で何も考えずに物語を進めると主人公の宿敵や好敵手が全国大会にはあまり登場しません。その所為で全国大会はいまいち盛り上がりに欠ける部分があります。

当たり前の話ですが全国大会に勝ち進めない学校というのは、全国各地から集まる強豪校と知り合いになる機会はあまりありませんからね。逆に県内にいる学校というのは練習試合をしたり県大会で何度も目にしたり街中で出会う機会が多いので、それを利用して主人公達と関わるエピソードを幾つも積み重ねていけば、ただの対戦相手から主人公達の好敵手や宿敵にまで容易に格を上げられます。

「アイシールド21」なら王城ホワイトナイツの進と桜庭、「スラムダンク」なら陵南高校の魚住と仙道、好敵手と言える彼らとの試合にはドラマが生まれて盛り上がり、立場的には主人公達の敵であるはずの彼らが活躍するだけでも読者は心を弾ませます。これは先程も書きましたが全国大会に進むと使うのが難しいので、作者はエピソードの積み重ね以外にも試合を盛り上げる方法を考えてきます。

Slam dunk―完全版 (#1) (ジャンプ・コミックスデラックス)

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盛り上がらない試合は描かない
スラムダンク」では主人公達が全国大会の2回戦で優勝候補筆頭の山王工業高校に勝利した後に、3回戦であっさり敗北して幕を閉じる事によりそれを可能にしました。ここには普通なら決勝戦で対戦するであろう最強の敵と2回戦でぶつかる意外性、主人公達も読者も面識のないどうでもいい強豪校との試合を減らせる利点があります。陵南高校海南大附属高校の様な因縁のある学校でも無ければ、山王工業高校の様な最強の学校でも無い相手との試合なんてものは、描いたところで作中屈指の名勝負にはなりえません。

そうしたどうでもいい試合を省略するにはあの展開が最も適していたのだと思います。作品全体の面白さを優先するならだらだら続けても意味は無いですからね。井上雄彦先生の「前の試合よりもつまんない試合は絶対描きたくない」「山王戦より面白い試合は描けないと思っていた」「テンション高いところで終わらないと、作品にとって不幸になっていく」という発言からもその事は感じます。

全国大会に向けて布石を打つ
上記の全国大会には因縁のある選手が現れず盛り上がらないから早期に終わらそうとした「スラムダンク」とは正反対の発想で作られているのが、全国大会に因縁のある選手を出す為の準備をした「黒子のバスケ」です。「黒子のバスケ」では最初にキセキの世代と呼ばれる天才達と主人公が中学時代のチームメイトであったと説明されます。そのキセキの世代は高校からはそれぞれが全国に散らばる強豪校に進学していきましたから、主人公が全国大会優勝を目指して勝ち進めば何時か必ず因縁のあるキセキの世代の誰かと激突します。

最初に因縁と最強の両方を兼ね備えた選手を全国各地に配置する展開は、主人公が彼らと試合をするまでに時間が掛かるので打ち切られると出番がないまま終わる選手が出てきてしまいますが、全国大会に進んでからのネタ切れに作者があまり頭を悩ませずにはすみますね。ただこれは桜木花道みたいなその競技の未経験者を主人公にする場合には用いる事が出来ないという欠点があります。「スラムダンク」と「黒子のバスケ」のどちらの方法が優れているかは状況によるので何とも言えませんが、後者の方が全国大会に登場する選手の読者人気を高めやすいとは思います。

山王工業高校との試合は素晴らしい内容でしたけど、河田兄弟や深津一成のファンはきっとそんなにはいないですよね。読者が好きになる選手を作るには性格や境遇を丁寧に描写したり出番も増やしたりする必要がありますが、全国大会で初めて登場する選手に対してそれだけ手間をかけるには時間があまりに足りない。既に人気の高い選手が何人もいる中でそんな選手を作るのは、試合を盛り上げる事よりも何倍も大変な気がします。

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

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ちなみに全国大会に出場した翌年も翌々年もそこまで行き、同じ学校と何度も試合が出来れば好敵手や宿敵を作れるのですが、これには3年生が引退してしまうという問題がありますから、「テニスの王子様」のように3年生の人気が高過ぎる作品では読者が離れるからそう易々とは使えません。この問題は「ちはやふる」に「おおきく振りかぶって」と1年生だけのチームであれば回避可能ですね。

無自覚に努力していた主人公は最初から強い - アニメ見ながらごろごろしたい