アニメごろごろ

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水島努演出の最大の特長は主観ショットにある


SHIROBAKO」の水島努さんは監督として評価される機会が最近は多いですけれど、ギャグアニメを中心に演出家としても素晴らしい仕事をしてきた方でもあります。そんな水島努さんの演出の最大の特徴は主観ショット。

ジャングルはいつもハレのちグゥ」に「クレしんパラダイス!メイド・イン・埼玉」に「嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード」に「嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ」に「ガールズ&パンツァー」に「監獄学園」。水島努さんが絵コンテや演出を担当する話では主観ショットが多用されています。

水島努さんの演出ではありませんが、監督を務めた「ウィッチクラフトワークス」の多華宮君の初飛行でも主観ショットは見られますね。カメラの位置を完全に固定した主観ショットであれば行う方は他にも何人もいますが、水島努さんみたいにカメラをキャラの動作と連動して上下左右に激しく動かす人は珍しい。


ジャングルはいつもハレのちグゥ
保険医を狙うダマの視点。主観ショットはキャラの体験している出来事をその視点を通し、キャラの心情を視聴者に感覚的に理解させる効果がありますが、このシーンではキャラの理解度を深める意図は薄いと思われます。視聴者にあんな化け物じみたダマの心情を理解するのは難しいので、この演出は保険医を追い掛けるダマの奇怪な動きを感じさせる目的で用いられたものではないでしょうか。


クレしんパラダイス!メイド・イン・埼玉」
蝶を追いかけ家の中を歩き回る赤ん坊のひまわりの視点。はいはいをするひまわりの目から見れば、一般家庭の住宅も信じられない程の広大な空間に感じられ、階段を昇るだけでもワクワクする冒険に思える。私達が普段から目にして飽きた風景も少し見方を変えるだけで、不思議な世界になることを教えてくれる映像。ちなみに目線を下げると体感的な速度は上昇するので、はいはいするひまわりと四足歩行するダマは、映像に迫力を与える意味では主観ショットと相性が良いと言えます。


「嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード」
ジェットコースターに乗るしんのすけの視点。ここでは誰もが一度位は体験しているであろうジェットコースターの恐怖の記憶を呼び起こす為に、主観ショットを用いて視聴者が見た光景に近いものをあえて見せています。先程説明した視聴者が知らない世界を体験させる為の主観ショットとは演出の意図が正反対。


「嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ」
カンチョーをするしんのすけの視点。西部劇の世界に迷い込んだしんのすけが両手を銃に見立て敵に狙いを定める姿を主観ショットにより描き、「コール オブ デューティ」や「ゴールデンアイ」のようなFPSの雰囲気を表現しています。主観ショットを主人公視点でプレイするシューティングゲームのパロディに使うとは発想が面白いですね。


ガールズ&パンツァー
走行中の戦車の視点。戦車に搭乗した経験を持たない視聴者に戦車がどの程度揺れるのかとか視界の広さを視聴者に伝える為に主観ショットを用いています。水島努さんが1話の冒頭からこれを見せたおかげで、戦車で戦う主人公達の気分を序盤から感じられます。これが見せられないまま物語が進むと、視聴者の戦車道に対する理解度は大幅に低下したのではないでしょうか。


監獄学園
女子に蹴られるガクトの視点。作品を見た方には説明する必要はありませんが、これはガクトの正体を視聴者に明かさない為の演出になります。主観ショットであればそのキャラの顔は映さずに済むので、視聴者にそれが何者なのか正体を悟らせない目的でも使えます。主観ショットの用途としてこれだけ幅広いものが挙げられるあたり、水島努さんは演出の引き出しが少ないからこれに頼るわけでは無い事が窺えます。


主観ショットではキャラを振り向かせたり移動させたりすると、その度に視点が変わり背景が静止画から動画になるなど非常に手間の掛かる演出。近年はCGで立体的な建物等を作れるおかげで多少は楽が出来るようになりましたが、それが無い時代では「クレヨンしんちゃん」みたいに背景が簡素なギャグアニメでもなければ滅多に使えない演出。ちなみに初監督作品となる「クレしんパラダイス!メイド・イン・埼玉」では脚本、作詞、作曲、絵コンテと何から何まで水島努さんが手掛けているそうなので、水島努さんの才能を知る意味ではうってつけの作品だと思います。