アニメごろごろ

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あらゆる物語を生み出す力を秘めた吸血鬼

日本では「終わりのセラフ」に「月姫」に「化物語」と吸血鬼を題材にした作品が沢山生まれていますが、古今東西の怪物の中で吸血鬼だけがやたらと取り上げられる背景には、吸血鬼という存在から生み出せる物語の幅の広さにあるのではないかと考えています。

近代の吸血鬼の特徴は作品により多少差異はあるものの人間の血を吸う、血を用いて仲間を増やせる、不老不死の肉体を持つ、太陽の光に弱いといったものがあるのですが、これらの一つを取り扱うだけでもかなり深い物語を生み出せます。それが大勢の作家を百年以上も惹きつけて止まない魅力になります。


人間を襲わなければ生きられない
吸血鬼には人間に対する吸血衝動があるので、他の怪物と異なり人間との共存が困難になります。通常は怪物だろうと何だろうと意思疎通が可能な知能があれば、人間と殺し合わずに和解する道も見えてきますが、吸血鬼が本能的に人間を襲うとなるとそれは厳しいですよね。この共存可能性の低さがあると、それが可能になった時の感動も大きいものになりますし、人間と吸血鬼を争わせる展開に消費者からの納得が得られやすい。

最近は「プリキュア」等の子供向けの番組でさえ善悪二元論の世界観は否定されてきているので、互いに理解し合えるだけの知性がある癖に争いを始めるのであれば、それなりの理由を用意しないと消費者は脚本の質が低いと感じてしまいます。例えば文明が未発達で外敵は殺すのが当然という価値観が支配的であるとかですね。吸血鬼の吸血衝動もそうした争わせる理由として機能します。これと似たような設定は「寄生獣」のパラサイトにも見られます。

寄生獣(1) (アフタヌーンコミックス)

寄生獣(1) (アフタヌーンコミックス)

立場が変われば見える世界も変わる
人間と吸血鬼が争う世界で吸血鬼の能力により、人間が吸血鬼にされると味方だった人間が敵になり、逆に敵だった吸血鬼は味方になります。吸血鬼ものでは「亜人」や「ブラスレイター」のように普通の人間として生きていた者達が、ある日突然人外の存在となり同胞から命を狙われる展開が生まれます。

「東京喰種」もそうなんですけど、人間が人間としての価値観を持ちながら怪物になる展開は、その元人間の主観を通じて人間と怪物の生きる世界の違いが際立ちますから、最初から怪物として生きている者の視点で描かれるよりも理解と感情移入が容易になるのが利点。

吸血鬼にされて人間と吸血鬼の両方の世界を経験した事で、それまで人間から危険とされていた吸血鬼が悪い者ではないと分かり、両者の橋渡しをして平和を築こうとする場合があります。しかし人間の吸血鬼に対する迫害があまりにも酷ければ、吸血鬼になると即座に味方だと信じていた人達から敵視され裏切られ、そんな仕打ちを受けた吸血鬼は人間の残酷さに絶望して殺意を抱き人間と吸血鬼の争いが激化する場合もあります。「猿の惑星 創世記」や「新世界より」や「仮面ライダー555」の劇場版がそんな感じの世界になっていましたね。

亜人(1) (アフタヌーンコミックス)

亜人(1) (アフタヌーンコミックス)

不老不死は幸福を与えるのか
人類の夢である不老不死が何をもたらすのか、それも吸血鬼を題材にした物語では描けます。何百年とあまりにも長い時を生きた不老不死の吸血鬼は沢山の経験を積んできた所為で、あらゆるものに飽きてしまい何かを成し遂げる意欲を持ち難い存在です。まるで死んだように生きている。

目的を持てず無為に日々を過ごす吸血の最大の敵は退屈と言っても過言ではありません。その退屈な生活から逃れる為に過激さを求めて人間の命を弄ぶ吸血鬼も中にはいます。吸血鬼から見た人間というのは人間から見た鼠のように次から次へと生まれては死に生まれては死にを繰り返す生物なので、それだけの数がいるなら少し位は奪っても問題ないだろうと吸血鬼は人間の命を軽視する傾向にあります。

不老不死を求める人間達は手段を選ばずに時として他者を犠牲にしますが、そこまでして不老不死を得た先にあるものは退屈で生の充実を感じられない永遠の地獄か退屈から逃れる為なら倫理観も捨てる悪の道。

不老不死を題材にした物語ではこのように不老不死故の不幸を描き、人間にとって大切なのは不老不死を手に入れる事よりも限りある時間を何の為に費やすのかどうか、それを消費者に伝えて生きる意味を考えさせる意図が込められている場合があります。不老不死とか恒久的な平和と平等とかの手に入りそうもない人類の夢を描いた作品では、その夢がもたらす負の面を描いて消費者が理想に逃げず現実を生きられるような結末にする傾向がある気がします。

PSYCHO-PASS 監視官 狡噛慎也 1 (BLADE COMICS)

PSYCHO-PASS 監視官 狡噛慎也 1 (BLADE COMICS)

少年向けの作品との相性は抜群に良い
少年はバトルと美少女が大好物なんですが、吸血鬼はその需要の両方に応えられます。何百年生きても外見は変わらない吸血鬼からは「UQ HOLDER!」のエヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルみたいなロリババアが生まれやすい。

老いる事のない美少女とか最高ですよね。不老不死が人類の夢だとしたら永遠の美少女は男性の夢。この手のロリババアの魅力はそこも魅力ではありますが、最大の魅力は何と言ってもギャップにあります。

化物語」のキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードは500年以上生きているだけあって、豊富な知識を持ち精神的に成熟している部分もあるのですが、人間社会から距離を取りながら孤独な日々を過ごしたからなのか、妙に世間知らずだったり子供っぽいところも持ち合わせています。具体的にはドーナツなんかで大喜びしたりと怪異の王にして最強の怪異とは思えない振る舞いがギャップ萌えになる。

もう1つのギャップ萌えは肉体的には強いのに精神的には弱かったりするところですね。吸血鬼は強大な力を持つ為に人間から敵視されやすいので、人間社会から離れて生きなければならない場合もあります。幸運にも吸血鬼である自分を怪物扱いせずに受け入れる人間が現れたとしても、その大切な人間は時が経てば死んでしまい自分の前から去ってしまいます。そうした出会いと別れを繰り返すうちに、大切な人達が自分よりも先に死んでしまい悲しい想いをするならば、最初から出会わなければいいと考えてしまい自らの意思で孤独を選びがちです。

ちなみにこれ以外では大切な人達に向けていた愛情を彼らの残したものに向けるという場合もあり、「マギ」のシェヘラザードは愛していた王の器が残したレーム帝国を最高司祭の立場から見守りながら200年を生きていました。シェヘラザードは寿命が長い所為で長期的な視点から物事を考える傾向があり、漸進的な改革を好んで問題を早急に解決しようとはしません。

これは現状に不満を抱える人達からは好かれない態度だと思いますが、短期的な結果にだけ囚われない人間に権力を集中させれば将来的には繁栄するのではないかなと思います。先程吸血鬼の敵は退屈といいましたが、国家を繁栄させるとか世界を平和にするという時間のかかる目的がある場合にはそれから逃れやすそうですね。

さて孤独を選んだ吸血鬼について話を戻しますが、彼らは心の底から望んで孤独を選んだ訳ではありません。大切な者を失う恐怖から自分の心を守る為に逃げているだけなので、そこから解放してあげて伴侶となる事が彼らの救済になります。この救済対象が異性であれば恋愛にも繋がる事は言わずとも分かりますよね。不老不死の強みを活かし膨大な知識と強大な力を手に入れ、もはや向かうところに敵は無い吸血鬼かと思いきや、実際には人間から迫害され孤独に怯える美少女でしかないとなると、男性的には庇護欲がそそられるのではないかと思います。

UQ HOLDER!(7) (講談社コミックス)

UQ HOLDER!(7) (講談社コミックス)

吸血とは性行為の暗喩である
少年向けの作品では美少女の胸が揉まれたり、下着が見えるなどのサービスシーンが求められます。それをどういう風にして作品に入れるのかは作家を悩ませる要因。作家は可能な限り展開的に無理のない形でサービスシーンを入れようとしますが、それが思いつかないと偶然女子更衣室に紛れ込んでしまったとか、偶然美少女を押し倒して胸を揉んでしまうとかの不自然な展開になります。

そんな不自然でわざとらしい展開をやられると物語の世界に入り込むのを妨げてしまう事態を招きますが、吸血鬼なら血を吸う際に邪魔になる衣服を脱がすという自然な流れでサービスシーンを入れられます。

最近の作品でそれを最も活かしていたなと感じたのが「ストライク・ザ・ブラッド」。主人公の暁古城は性的な興奮により吸血衝動が起きて、女性の血を得る事で秘められた能力が覚醒するという設定なんですけど、この設定があるおかげで主人公が強敵と戦い敗北、勝利する為にも血を吸う必要が生まれて、吸血衝動を起こそうとするヒロインが脱ぎ、主人公が吸血により強化され強敵と再戦する展開が作れるんですよね。

これは少年が喜びそうな燃えと萌えを両立させるには非常に有効な手段。ちなみに吸血鬼に血を吸われると快楽を感じるそうなんですが、この設定を用いれば吸血行為をまるで性行為の様にも描写出来るので、性行為が描けない少年向けの作品でそれらしいものを見せたい場合には役に立ちます。吸血鬼が血を吸った相手を眷属にして従わせるという設定を組み合わせれば、少年向けでもかなりあれな感じの展開はやれそうです。

異能力者との戦闘にも対応可能な吸血鬼
ここまでは吸血鬼と美少女について書いてきましたが、ここからは吸血鬼とバトルについて書いていきます。人間を凌駕する怪力しか能が無い怪物達とは異なり、吸血鬼には昔から蝙蝠に変身するなどの不思議な力があるとされ、これが幾つもの創作物を通じて次第に魔法的な能力に変化してきました。

その魔法的な能力は汎用性が高いので、ゴミを木に変えたり時を止めるといった多種多様な異能力が生まれた日本の漫画においても、まだまだ通用する魅力を持っています。吸血鬼はそれに加えて不老不死の肉体に人間を眷属にする能力まで持つ恐ろしい存在ですが、十字架が苦手で太陽の光にも弱いなどの弱点が用意されていますから弱者でも勝ち目はあります。

弱点があると戦闘力だけで勝敗が決まらずに相性や戦術で戦闘力の差が埋まるので、勝つか負けるか展開の読めない緊張感のあるバトルにしやすい。この吸血鬼の特徴は「ドラゴンボール」に代表される戦闘力が物を言うバトルから「HUNTER×HUNTER」に代表される能力の使い方で強敵を倒せるバトルに変わりつつある時代との親和性は高そうですね。

考えてみたら「HUNTER×HUNTER」の様な複雑な能力や駆け引きありの頭脳戦を広めたと言われる「ジョジョの奇妙な冒険」の序盤の敵は太陽の光に弱い吸血鬼や柱の男なわけで、最近のバトルものを広めてきたのは微力ですけど吸血鬼の功績と言えないことも無いかもしれません。

今回の記事は冗長な部分もあるような気がしますが、吸血鬼から生み出される物語の幅の広さとその影響力、それらに関してはそれなりに伝えられたと思うのですがどうですかね。