アニメごろごろ

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異世界トリップものの強み

読者が主人公の視点を通じて世界のことを知る
異世界に飛ばされた主人公はその世界について何も知らない。それは作品を初めて読んでいる読者と同じ立場です。異世界の住人にとっては常識なことであっても主人公は何一つ知らないので、それらについて少しずつ聞いて見て知っていかなければなりません。そんな主人公の姿を見ながら読者も一緒になって少しずつ異世界について知ることになります。これが主人公の主観で描かれるものだとより読者は主人公の経験を追体験しやすいです。

ギャルゲーの主人公に自分を重ねて楽しむように、自分が異世界に飛ばされた気分を主人公の主観を通して味わう。異世界召喚ものの面白さにこの読者と主人公の接続感があります。最初から異世界で生きていた主人公であれば読者は自分とは違うものとして捉える傾向にありますが、自分と同じ世界で生きていた主人公であれば自分と重ねてというか自分だったらどうするかを考えながら読みやすいです。

有り得ないけどもしかしたら自分の身にも降りかかるかもしれないという感覚が読者を作品に引き込む力となる。あの「バトルロワイヤル」がヒットしたのもこうした接続感があったからでしょう。物語の導入部においてこれがあると読み易さが増すので、小説家になろうでは現代日本人による主観形式で語られる作品が多いのだと思います。

バトル・ロワイアル

バトル・ロワイアル

異世界は主人公を特別な存在にする
主人公には特別な力があるというのは少年向けではお約束ですが、登場人物の中で主人公だけが特別な力を持つことを読者に納得させるには何らかの理由付けが要ります。例えば先祖が魔族だったとか悪魔と契約したとか、他の人間とは違う何かがあるから強いといった感じですね。これが異世界召喚だと異世界から来たというだけで、主人公に他の者達とはあらゆる面で異なる特別な力を与えることが可能となります。それは現代日本人ならではの知識であったり道具であったり価値観であったりと様々です。

小説家になろうでは主人公が強いのは異世界人よりも魔力量が多いからという設定が多々見られますが、何故魔力量が多いのかという問いに対して別の世界の人間だからの一言で読者を納得させられます。主人公が強過ぎることが批判されることはあっても、強い理由に関しては批判されることは少ないみたいです。まあ別世界の人間であれば生物としても何かしら違うでしょうから、魔力量とか色々違うところがあるのは不自然ではないと思う読者が多いのだと思います。

これ異世界の住人からすれば主人公の強さは才能にしか見えないんですけど、読者視点では自分達と同じ普通の人間に見えるところが重要な部分です。これによりここでは無い何処かであれば才能の無い自分達であっても主人公の様に輝けるという幻想を読者に抱かせることが出来るんですよね。まあ本気でそう思う読者はまずいませんが、こうした部分が少なからずあるのはヒーロー文庫の「平凡な男もヒーローになれる」というコンセプトからも言えますね。

話を戻しますが主人公の強さの源泉となるのは、これ以外では元いた世界での知識が強さに影響しているという設定もあって、「ナイツ&マジック」ではプログラマーだったことが「フレイム王国興亡記」では銀行員だった経験が異世界において活かされます。異世界転生の場合にはそれに加えて幼少期から目的意識を持って行動していたことが強みになることもあります。

5歳や10歳程度の普通の子供達は将来のことなんて考えずに遊んでばかりで自らの能力を高めよう努力はしないのですが、転生した主人公は精神年齢だけは高いので意識的にそれを行うことが出来ます。これが10年以上続けられると同年代の連中とは能力の差がかなり開いていきます。
ここには幼少期からの努力という過程が含まれるので、何もせずチートな力を得る主人公よりは批判されることは少ないと思います。「ナイツ&マジック」ではそこを評価する読者もいるみたいですね。

ナイツ&マジック 1 (ヒーロー文庫)

ナイツ&マジック 1 (ヒーロー文庫)

異世界の住人と主人公の価値観の差異が物語を深める
現代日本人にとっては人間を殺めることも奴隷を従えることも忌避する事柄ですが、異世界ではそうは思わない人間が多いです。これは「異世界迷宮の最深部を目指そう」でも描写されていますね。この価値観の違いから葛藤が生まれたり、またそれらの無い平和な世界に変えようという動機にもなります。

異世界をただ魔法等があるゲーム的なものとして捉えずに、一つの世界として徹底的に描いていこうとするとどうもこうした価値観の違いに触れることが多いみたいですね。現代日本人は戦争して相手を殺す覚悟もない平和呆けした人間ばかりと言われたりもしますが、その代わり他者のことを気遣う優しさも持っています。これが異世界においては甘いと糾弾されたり、救われた奴隷からは聖人のように映ったりとドラマを生み出します。

こうした展開は読者が生きている日本とはどういった環境なのかを再認識することにも繋がり、また奴隷や戦争が当たり前の時代とはどの様なものなのか歴史を擬似的に知ることにもなるでしょう。主人公に特別な過去や性格を付与しないとしても現代日本人としての生き方が、異世界においては異質なものになりそれだけで劇的な物語を紡ぎます。無個性な主人公であっても主人公に相応しい英雄になる可能性を秘めているのは、現代日本の常識が通用しない異世界ものならではのものでしょうね。

異世界迷宮の最深部を目指そう 1 (オーバーラップ文庫)

異世界迷宮の最深部を目指そう 1 (オーバーラップ文庫)