- 作者: 三丘洋,こずみっく
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン
- 発売日: 2014/05/31
- メディア: 単行本
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魔王という人類共通の敵が消え、それを倒した勇者だけが世界に残される。それが世界に与える影響はどのようなものなのか。魔王以上の力を持つ勇者が新しい人類の敵となったり、魔王が倒されたことで得られる土地等を人間同士が奪い合ったり、魔王という統率者が死んだことで魔族が好き勝手に暴れたりという展開が考えられます。こうしたところに注目した作品は商業や非商業問わず幾つもあります。個人的に印象に残っているのは「ドラゴンクエストモンスターズ+」のロランの話ですね。
「勇者様のお師匠様」もそうした魔王が倒された後の世界を描いた作品の一つです。この作品を読んでいて素晴らしいと思ったのは物語の構造ですね。これはもうあらすじや設定を聞いただけで他の作品と一線を画していると感じられる程です。主人公のウィンは昔勇者の師匠をしていただけの騎士に憧れる平民、ヒロインのレティシアは勇者な上に公爵令嬢。帝国はレティという世界最強の兵器を手元に置き操りたいと考え、その為にレティが慕っている立場も力も弱いウィンを利用しようする。
これもしウィンが何の目的も持たないただの平民であれば、レティとウィンは二人で愛の逃避行をすることも可能だったんでしょうけど、これを騎士になるというウィンの夢がそれを阻むんですよね。騎士になれば帝国の命令に従い、帝国を護らなければならないので、自分勝手に逃避行なんて出来ませんからね。この騎士を目指しているという設定が物語を豊かにしています。
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レティからすれば自分の強大過ぎる力とウィンへの執着心の所為で、ウィンが帝国やその他勢力に目をつけられ政治的利用をされることになっている訳ですから。自分の師匠はウィンであると告白しなければこうはならなかったはずなので、巻き込んだのは自分であるという罪悪感がレティにはあります。ウィンの夢がレティを不幸にし、レティの想いがウィンを不幸にする。この関係が見ていて切ないです。お互いが相手の幸せを願っているのに世界がそれを許さない。ここは恋愛ものとしてもかなり上手い設定ですね。
勇者と帝国だけの物語や勇者と平民だけの物語であれば、もっと単純な物語になっていたと思いますが、勇者と平民と帝国という三つの要素が絡み合ったことで、キャラのドラマも世界の複雑さもより深みのあるものになったように思います。そういえばRPGでは主人公がどこぞの王様から「娘と結婚しないか」と提案されることが時々あって、子供の頃はあれ王様が主人公のことを気に入っただけかと思っていたんですが、もしかしたら主人公を自国に引き入れる為の戦略だったのでしょうか。